かわいい表紙を見て何も考えずに手に取った。読み始めて驚く。なんなんだ、これは、と思う。勝手に思い込んでこれを軽いタッチの青春小説だと思っていたからだ。この異常な展開にアタフタしているうちに、どんどん作品世界に取り込まれていく。この15年間も封印されていたという幻の「第39回新潮新人賞」受賞作品に圧倒された。
東北生まれの美貌の青年アマネヒト(この名前も何なんだと思う。漢字で書くと、フルネームは天地偏人である)の出生の秘密から始まり、姉の海さん(だから天地海、ね)のことや、東京に出てきてからの奇想天外な展開や、本題である破滅社のこと。そこでの小説を書く人たちとの交流。皇子(紙上大兄皇子)の登場、彼の恋人であり秘書の潮さんとのこと。彼女の妊娠出産まで、怒濤の展開に圧倒される。こんな小説、読んだことがない。荒唐無稽ではない。だって実際にこの本自体が破滅社から出版されている。現実と小説がリンクして、どこまでがほんとうでどこからが小説なのかの境目は、わからないし、でも、なんだかそこも気になる。これはただの小説だとは思えないからだ。
最後の作者自身による短編小説並みに長い後書きも凄い。興味津々で読まされた。冗談で、煙に巻かれるのではなく、リアルとフィクションの垣根を軽々と越えて、20年の歳月を経て出版されたこの1冊の本の不思議に翻弄される。高橋文樹という人生そのものがこの1冊には封印されている。
さらに、受賞後第1作として書かれたのに没にされていた『フェイタル・コネクション』を読んで、これがダラダラした小説で、何がいいたいのやらよくわからないのにも驚いた。ダラダラ綴られるタカハシとその同居人カントのやりとりにイライラしながらも、ここに描かれる小説についての考察に引き込まれる。
でも、これを読むと『アウレリャーノがやってくる』の感動が損なわれる気がした。だけど、読み終えてこの2作品はセットなのだと理解した。後書きとして用意された短編小説『彼自身による高橋文樹』まで3本含めてで完結するひとつの世界観がこの1冊には提示されていたということに気づく。これはそんな破天荒な1冊だった。