ようやく公開になったスピルバーグの新作だ。この正月の公開が急遽またまた延期になり、2月11日に変更。さすがに今回は見送られることなく公開が始まったけど、きっと思ったような動員は出来ないのではないか。だいたい今更『ウエスト・サイド』って、と思う。あまりに有名になりすぎた映画界のレジェンドである。この歴史的名作を今の時代にリメイクするということにどういう意義があるのか、よくわからない。しかも、こういう古典は若い観客には全くアピールできないだろうし。誰が見に来るのでしょうか? 年配の映画ファンくらいしか期待できそうにない。でも、そんな人たちはオリジナルのファンだろうから、今この新作より、午前10時の映画祭で旧作を見るほうがいい、と思うのではないか。
そんなこんなで、誰も見ないだろうけど、僕は見る。だって僕はリアルタイムで『JAWS ジョーズ』を見て大興奮してから、それ以降のすべてのスピルバーグ映画を公開時に劇場で見ているのだ。(まぁ、そんな人はたくさんいるだろうから自慢にはならないだろうけど。)
それにしてもスピルバーグ。どうして今この再映画化に挑んだのか。今の時代にこの映画がアピールするものがあるとすれば、それはオリジナル作品でも充分伝えられることだ。じゃぁ、新しい視点をこの映画化に付与できるのか、と言われるときっとうなずけないはず。無理。それにそれではあの傑作に勝ち目はない。しかも、あれは60年経っても古びない。(たぶん。僕が見たのは高校生くらいの頃なので、もう40年以上前のことなので、細かいことは忘れたけど、当時は感動している)あまりに有名すぎて、どう勝負するのか、想像もできない。なのにこの作品に挑戦した。スピルバーグは何を見せてくれるのか。
で、見たのだが、実に面白かった。こんなにもベタなお話なのに、スピルバーグは堂々とそれを踏襲し、奇を衒うことなくそのまま見せる。このお話が本質に持つ力を信じる。圧巻のダンスとミュージカルシーンには圧倒される。テンポもいい。いろんな意味でストレートな映画だ。
ここに描かれた問題の本質は今も変わらない。シャーク団とジェット団の抗争はプエルトリコ人とアメリカ人(ポーランドからの移民である白人だけど)だけの問題ではない。両者の争いは国同士の戦争と同じ。こんな争いに何の意味もないことを伝える。でも、それが何だというのか。
現代に置き換えるとかいうようなことはもちろんしていないから、オリジナル同様60年代初めが舞台となる。でも60年後の今このお話が現代の人たちにどう映るのか?人種間の対立とか、今も昔も変わらないけど、そこを前面に押し出しても何もアピールするものはない。懐かしいだけなら、この新作を作る意味はない。
まるで昔の映画を見ているような気分だった。2022年の新作映画には見えない。オリジナルそのままの古臭さ。そんな映画が今の時代にどれだけアピールできるのだろうか。よくわからない。2時間39分の長尺なのに、あっという間の出来事だった。ミュージカルシーンは素晴らしく、原作映画を見ていない人でも、みんなが知る有名なナンバーのオンパレードで楽しめるはず。先にも書いたように面白い映画ではある。メロドラマとしても楽しめる。でも、なんだかなぁ、という気がする。これだけの労力を尽くしているのに、残るものがない。