あの大作『カオス・シチリア物語』や素敵な小品『サン・ロレンツォの夜』の監督タヴィアーニ兄弟が放つとても小さな映画。いや、クレジットを見て「あれっ?」っと思う。監督パオロ・タビアーニとある。兄弟で映画を作ってきたはずなのに、なぜ?
調べるとすぐにわかる。兄のビットリオが亡くなったからだ。これはパオロ・タビアーニ初の単独監督作品となる。彼も1931年生まれなのでもう92歳になる。
彼らの代表作『カオス・シチリア物語』の原作者であるピランデッロの遺灰をシチリアに帰すまでのお話。実話をベースにした作品だと思うけど、美しいモノクロ映像で綴られるお話はまるでおとぎ話みたいだ。でもドキュメンタリーを見てるような気分にもさせられる不思議な感触。ユーモアがあり、リアルでもあり。遺灰が辿るローマからシチリアまでの旅。そこで起きるトラブルの数々。それが戦後の風景を背景にして描かれる。なんだか懐かしい映画なのだ。モノクロ映像で当時の記録映像を交えることで、昔のイタリアのネオリアリズム映画を見ている気分になる。
ラストのカラーになった海の青が美しい。映画はその後にピランデッロの遺作短編小説『釘』がエピローグとして追加される。この不条理劇の放つインパクトも普通じゃない。わけがわからないけど、わからないまま突き放されるのに、何故か納得してしまう。イタリアからの移民一家がアメリカでレストランを開く。その最初の1日。なのに少年はふたりの女の子の喧嘩に出会い、偶然手にした釘で少女を殺してしまう。「定め」って何なんだ?
冒頭のピランデッロの死を描く場面も凄い。真っ白の部屋に3人の子どもたちがやってくる。まだ幼い彼らが父のベッドの元に近づくと歳を重ねる。やがて白髪頭の老人になる。
たった90分の映画なのに、こんなにも豊かで、いろいろ考えさせられる。イタリアの戦後史とピランデッロの人生、さらにはタヴィアーニ兄弟の人生までも重ね合わせて見せる。これはパオロにとって初の単独監督作品であると同時にたぶん最後の作品になるのではないか。