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映画・演劇のレビュー

『恋のいばら』

2023-01-15 00:34:27 | 映画

続々と新作が公開されていく今一番の売れっ子城定秀夫監督の最新作。昨年の4本よりこれが一番彼らしい作品かもしれない。これは一般映画なのだけどなんだかピンク映画のような感触が残る作品だ。だからいい、というわけではなく、ここには商業映画としての(もちろんこれは商業映画だけど)妥協がないということが魅力なのだ。いい加減で、なんだか自由。

3人の男女の三角関係の恋物語だと思ったら、まさかの展開だ。男の元カノと今カノが出会い、ふたりで男の化けの皮を剝がしていくというお話になる。いやでも、それもなんだか少し違う。まず男よりもこれは女たちの話。だからといってこの男をおざなりにはしないし、ただのワルとも描かない。でも彼が添え物。そういう立ち位置。ふたりとも彼が好きだけど、もう信じられない。だからと言って彼を追い詰めていこうというのでもない。そんなこんなで、ぼんやりしていてなんだか一筋縄ではいかないような展開なのだ。

元カノ(松本穂香)は地味な図書館司書。今カノ(玉城ティナ)は派手なダンサー志望フリーター。男はそれなりに有名な新進カメラマン。胡散臭い元カノに仕方なく付き合う今カノ。そんな女二人が共謀して男の部屋に忍び込み(そこに至るエピソードの数々が延々と描かれていて、そこも楽しい)、パソコンの中にある秘密を暴く。女ふたりの関係もまた単純ではなく、同性愛に近い状態にも描かれる。いろんな意味でよくある展開から微妙にずれていく。でも、それだって果たしてそうなのか、というくらいに危うい。終盤で、ある種の共犯関係に陥っていくこのふたりの関係の真実が明らかになる。確かにそれは意外な展開だが、それだけでは少し甘いのが惜しい。

でも、そんな詰めの甘さが作品の自由度を示し、昨年の4本の規制だらけで不自由そうな映画よりも面白い作品に仕上がった。彼はある種の型に嵌めるとつまらないのだな、と思う。わけのわからなさをわからないまま見せていくことで生き生きとした作品を生み出す。今は一般映画に進出してそんな彼の魅力が生かしきれてないのかもしれない。職人監督としての城定秀夫ではなく、変態監督としての城定秀夫がこの先一般映画のフィールドでも活躍することを期待する。


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