「女の子がきらめきを落とした。」そんな不思議な、でもなんでもないような、一文から始まる「ボーイミーツガール」の一編に象徴されるように、これは誰かが誰かと出会い、(あるいは別れ)ていく瞬間を描いた短編集だ。6つの出会いが描かれる。20歳前後の青年男女が登場する。大学生が主人公。ほとんどのエピソードはキャンパスライフのサークル活動が背景になる。よくある青春小説だ。彼らのそこでのキラメキが描かれるようだ。でも、それは単純ではないということはこのタイトルからも明らかだろう。
一応、ラブストーリーだ。YA小説の棚に置かれていてもおかしくない。でも分類上は一般書になっている。まぁ、どちらでもいいし、そんなことはどうでもいいけど。ただ、YAの棚に置かれると、読者を限定してしまいそうでもったいない作品が多々ある。先日の神戸遥真『笹森くんのスカート』なんてまさにそうだ。これは鯨井あめなのでYAには置かれなかったけど、これこそYAの棚にぴったりな作品集ではないか。それは、この小説を子供向けだ、ということではない。この小説の夢見心地は現役の中高生にぴったりだと思うのだ。
男の子と女の子が出会い、つきあう。そこに生じるさまざまなできごとをいろんな側面から、いろんなタッチで描いていこうとした。これまでの彼女の2冊の長編とは少しタッチの違う作品に仕上がっている。いくぶん甘いけど、このくらいの匙加減が僕は好き。
『主人公ではない』は、同じ1日を何度も繰り返し、事故で死んでしまう彼女の運命を修正しようとする男の子の奮闘に巻き込まれて、不本意ながら、同じ1日を何度となく永遠に思えるくらい繰り返す主人公ではない男の子のお話。(彼の恋人の名前は、未知だと思っていたら「未和」だった。思い込みで終盤までそう間違えて読んでいたのだが、なんとなくそれでいい。僕は個人的にだけど「未知」のほうが好き。昔作った映画のタイトルも『未知子』! 余談です。もちろん)
いずれのお話も甘い。ジュニア小説のよくあるようなネタと展開。たわいない。だが、6つの話を読み終えた時、そこには小さな希望があるように思えた。それこそがこの作品に込めた作者の想いだろう。20代に入ったばかりの彼らへのエールだ。あなたはまだ始まってもいない。ここから始まる、というメッセージだ。