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映画・演劇のレビュー

『 もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら 』

2011-07-06 19:56:42 | 映画
 この映画化だけは何をどうやっても必ず失敗すると思った。ドラッガーの経済書をベースにして、彼の理論のもと高校野球部の女子マネージャーがそれを実践していく姿を描くドラマなんて映像化しても面白いはずがない。これをなんとか面白く見せるためなら理屈っぽくなる部分をすっ飛ばして見せるしかないのだが、そんなことをしたらこのお話を見せる意味がなくなる。ただのスポ根ものになってしまうし、それではあまりに陳腐だ。1回戦で負けるようなやる気のないヘボ野球部を甲子園に連れて行くなんていう夢のような話をリアルに見せなくては成功はない。そのくせ元ネタが経済論なので自ずとテンションは低くなる。そんななか、いかに感動的な映画にするのか? 無理だ。だいたいこの話でテンションをあげようとすること自体が至難の技だ。しかもハイテンションで解決するような問題ではない。

 さて、結論を言おう。この映画はけっこう上手くやっている。しかし、この場合「それなり」では、観客は納得しないだろう。この映画がヒットしないのは当然である。

 主人公のマネージャーを前田敦子が演じる。彼女はどこにでもいそうな普通の女の子である。とてもアイドルには見えない。そこがいい。映画も彼女を中心にしているのに、全く彼女の方にカメラが寄っていかない。しかも、彼女はいつも無表情に近いそっけなさで熱くならない。こんなアイドル映画なんてあり得ない話だ。でも、そこは譲らない。それはきっと監督の意図である。

『マネジメント』に書かれてあるポイントを抑えて野球部の練習にそれを導入していく。結果は少しずつ出てくるけど、彼女は喜ばない。目的は甲子園出場である。そこまでの過程は通過点でしかない。そのくせ、県大会で優勝して出場を決めたときも、周りの選手たちと一緒になって喜んだりしない。全編醒めている。へんな映画だ。でも、その冷静さがこの映画を「取りあえずの成功」に導いたのだ。映画も、彼女と同じようにずっとクールを保ち続け、はしゃがない。こんなに淡々とした野球映画はかつて存在しなかった。

 田中誠監督は『うた魂』で、あきれたような発想をクールに描き成功させたことがあるが、あの時でさえ、主人公2人にはちゃんと暴走させていた。でなくてはあの時は映画自体が成立しなかった。なのに今回は主人公を暴走させない。彼女を冷静沈着に見せることに徹する。最初から最後まで誰も興奮しない映画になった。この嘘くさい話を取りあえず成功させるためにはこのやり方しかなかったのだろう。その結果、見終えたとき全然興奮も感動もしない映画になってしまったが、それはそれで仕方がないことなのだ。



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