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映画・演劇のレビュー

桜井美奈『きじかくしの庭』

2013-07-30 23:06:09 | その他
タイトルの「きじかくし」というのはアスパラガスのことだ。この本を読むまで知らなかった。もちろん、ほとんどの人がそんなこと知らないはずだ。そこを踏まえて作者はこのタイトルをつけたのだろう。「きじかくし」って何? そこから始まる。

新人作家のデビュー作だ。メディアワークス文庫なんていうのを生まれて初めて読んだ。図書館には結構この文庫本がならんでいるのだが、もちろん手に取ったことはない。今回たまたまこれを読むことにしたのは、カバーが気に入ったことと、やることなすこと適当で、浮世に興味のない仙人みたいな高校教師が主人公だということを、たまたま知ったからだ。僕はなぜか学校で「広瀬さんはいつもマイペース(適当、ということね)で、仙人みたいだ」と言われているから、同類相憐れむ、気分から、なんとなく、読み始めた。最初はこのあまりに軽い感じの青春ラブコメ風が、鼻についたが、すぐに気にならなくなった。こういうタイプは映画でさんざん見ているから免疫がある。しかも、この小説はかなり良くできているから、徐々にのめりこめた。ただの甘いだけの恋愛小説ではない。

教員6年目のあまりやる気のない男が主人公。暇があると、学校の片隅にある人気(ひとけ)のない花壇で、煙草を吸っている。(今ならそれだけで、停職だろう)そこにやってくるクラスからはみ出す少女たちとのお話。3章仕立て。3人の女の子たちとの関わり合いが描かれていく。クラス内での恋愛の破局。親友との関係の悪化。原級留置になり新しいクラスにも馴染めない。

どこにでもあるようなエピソードをちょっと甘いタッチで、でも、そこそこリアルに描いていく。お決まりの展開しかしないし、目新しいものはない。学園物の王道をいく。少女マンガのような世界だ。でも、現実の高校生活だってこんな感じだし、そこにはドラマチックに語るか否か、しか違いはない。

忘れられた花壇で、アスパラガスを育てる廃部寸前のやるきのない園芸部顧問。彼のゆるくて、でも、誠実な人柄が子供たちを助ける。そんなストーリーが楽しい。きっとこのくらいの距離感がいい。今の時代熱い教師なんて、鬱陶しいだけだろう。それより、適当で、自由にさせてくれて、でも、ちゃんと見守ってくれる、そんな都合のいい教師のほうが理想像ではないか。そういう意味でも、ようやく「広瀬の時代が来た!」 なんて、いうのはウソ。そんな面倒くさいのはお断りだ。ということで、今日も、だらだら1日中クラブして、映画見て、本読んで、芝居見て、夏をエンジョイしている。 






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