リチャード・リンクレイター監督の新作である。今回はアニメーション作品だ。彼はこれまでも実写とアニメを織り交ぜて作っているけど、なぜか、どちらもドキュメンタリー・タッチの作品である。実写はともかくアニメでもそう。というか実写というより劇映画ね。インディペンデント映画とハリウッド映画を垣根なく往還する彼だから、実写とアニメでも垣根はないのは当然だろう。でも、これをわざわざどうしてアニメにしたんだろう、と思うこともしばしば。今回もそうだ。
1969年を再現するためにはアニメのほうがいい、と踏んだのか。回顧趣味の映画だと思う。でも、この懐かしさに浸りたい。僕も69年、彼と同じで(ほぼ)10歳だった。(学年は僕の方がリンクレイターよりひとつ上だけど)ほとんど覚えてないけど、あの頃の記憶は鮮明だ。多感な時代だったはず、だ。描かれるのは小学校3,4年頃の思い出。まだ子供だったけど、少しだけ、いろんなことがわかり始めた頃。子供なりに考えて、いろんなことを夢見ていた頃。
僕は、宇宙飛行士になりたい、とは思わなかったけど、この映画の主人公の少年がたまたま宇宙飛行士になるという設定は面白い。しかも、彼自身もまた、ふつうの子供なら大喜びしそうなその僥倖をあまり喜んでいない。仕方なく引き受ける。そして映画は、飛行士として月に行くというお話より、毎日のなんでもないスケッチのほうが大切に描かれていくのだ。それってなんだか不思議な映画ではないか。こんなにもさりげなく描くくらいなら、少年宇宙飛行士の話にする必要はない。しかも、彼が飛行士であることはトップシークレットで、誰にも話せないし、誰も知らない。
69年という時代が大切だったのだろう。そして、その年、人類が初めて月に立ったことが。だから僕の中では69年ではなく70年のほうが鮮明だ。大阪で万国博覧会が開かれたから。万博がリチャード・リンクレイターの月面着陸以上のエポックだった。これはリチャード・リンクレイターの少年時代を描く映画なのであり、その象徴が「アポロ11号の月面着陸」だったのだろう。それは僕の「大阪万国博覧会」のようなものなのだ。10歳の少年は千里が丘で初めて「世界」を見た。その強烈な思い出からいろんなことがスタートした気がする。