監督・脚本はこれが長編デビューとなるスコットランド出身のシャーロット・ウェルズ。ドラマらしいドラマはない。ただ、記憶に残るあの日の出来事を思い出して綴る。それだけ。一昨日見た『なぎさ』もそうだったが、これもあまりに独りよがりだ。説明過多はまずいが、これでは不親切。観客に頼り過ぎ。ある程度のヒントは必要だ。上手く観客を誘導してそこで考えさせてくれる映画でないとよくない。匙加減はかなり微妙で難しいけど、料理だって映画だって同じ。
父親と2人で過ごした11歳の夏。20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘。31歳の父の想いを同じ歳になった彼女の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描く。だが過去と現在を交互に描くのではなく、あくまでも11歳のあの夏、寂れたトルコのリゾート地での日々が描かれていくばかりで、今の彼女はほとんど登場しない。ただ、あの日の彼女を今の彼女が見つめていく。過去の映像(ビデオで記録されたもの)とそこにあった過去のお話に終始する。当時の父の苦しみは11歳の少女にはわからない。31歳になった今なら少しわかる。(気がする)
あの夏のなんでもない出来事の数々。初めてのキス、大学生くらいの大人たちとのビリヤード、父がひとり夜の海に行ったこと、ひとりの帰り道で迷子になったこと、他ほか。そこには特別なことはなく、ただあの夏父とふたりきりで過ごしたこと、それだけ。だがそれが今思えば特別なことなのだ。描きたいことは確かに伝わってくる。ただ、これではそれが思ったほど心には沁みてはこないのが、残念だった。