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映画・演劇のレビュー

『イン・ザ・ヒーロー』

2014-09-08 20:09:32 | 映画
 50歳になる唐沢寿明がアクションに挑戦する。しかも、アクション映画ではなく、スーツアクターの話だ。スタントマンを描く映画なら今までもあったけど、こういうピン・ポイントな映画はなかったはずだ。自らもスーツアクターをしていた彼のちょっとした自伝的映画にもなっているらしい。だが、こういう陽の当らない場所で今も頑張る人はたくさんいる。この映画は特定の「誰か」ではなく、どこにでもいる「誰も」のための映画だ。そういう頑張る人たちへの応援歌なのだ。

 JAC(言わずと知れた千葉真一のジャパン・アクション・クラブだ)ではなく、HAC(なんと、ヒーロー・アクション・クラブだ!)を主催する唐沢演じる男は、ヒーロー物のスーツアクターをしている。本当はブルース・リーに憧れて、彼のようなアクションスターになりたかった。でも、現実はなかなかそうはいかない。日本でアクションスターとして頭角を現すことは難しい。というか、アクションスターというものが、まず、難しい。

 映画はそんな彼を主人公にした人情劇のスタイルを取る。彼のもとに生意気な若手俳優がやってくる。最初はスーツアクターをバカにしている。よくあるパターンになるのだが、まぁ、なんとか見ていられる。だが、映画は後半、ハリウッドのアクション大作の話へとスライドしていき、その危険なスタントに唐沢が起用されて、というお話がクライマックスになる。ここが厳しい。

 だいたい日本映画の中で、ハリウッド大作映画を劇中劇として取り込めるか、というのは、かなりリスクが大きい。ここに登場する作品やそのセットが、どう考えてもそんな凄い映画には見えないのだ。それだけで、興ざめしてしまうのはどうだかなぁ、である。しかも、ノーCG,ノー・ワイヤーによる誰もが見たこともない凄まじいアクションを4分半の長まわしで見せるというその映画のクライマックスが、ワンシーン・ワンカットではなく、しかも、どうにもしょぼいのは、せっかくそこまでなんとか頑張ってきたこの映画を、ダメにしている。

 あそこは、アクションを見せない方がよかった。でも、それではこの映画の観客が納得しないと思ったのだろう。だが、この映画が描きたかったのは、そこではないのだから、監督はなんとかして、そこを避けても(というか、そこを敢えて避けることで)観客を満足させるような作り方をすべきだった。あくまでも人間ドラマとしてきちんと書きこむべきなのだ。

 この映画に登場するハリウッドに進出した中国系のアクション監督(ツイ・ハークやリンゴ・ラムなんかをモデルにしたのか? 出来ることならジョン・ウーくらいで設定して欲しかった)の拘り方や、彼のキャラクターがもっとちゃんと描かれたならいいのだが、その辺も表層をなぞっただけで中途半端でつまらないのもなんだかなぁ、である。アクションに対する彼の拘りが何なのか、そこをきちんと描かなくてはあのクライマックスは成り立たない。

 『蒲田行進曲』のようなはったりで見せるのなら、こんな話であってもメリハリがつくのだが、こんなふうにリアルに見せるのなら、もっと細部まで詰めなくては説得力を持たない。

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