習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

せすん『白い墓』

2009-05-28 22:53:52 | 演劇
 げんだつばさんの仕掛けのいっぱいある台本と、三輪智津子さんのストレートな演出が、実に水と油なのに、なぜか2人の作り出す世界はおもしろい。この2年間、府職劇研の芝居を楽しませてもらったが、今回3度目にして初めて別の作者(高堂要)の作品を見せてもらった。

 劇団名も「せすん」と改めての再スタートなのだが、あまりに台本がストレート過ぎて、それをいつもと同じようにストレートな三輪さんの演出で見せるから、芝居は真面目一本槍の重いだけのものとなる。三輪さんによる今回の挑戦は残念ながら、失敗に終わったようだ。

 真面目すぎて芝居に奥行きがなくなったのが一番の敗因だ。主人公の言葉がどこまで本音でどこからがポーズなのか、その境目をもっとドキドキするようなサスペンスとして見せなくては成立しないドラマなのに、台本も演出もそうはしない。

 だいたい、もともとのお話自体が重くて暗いのだ。(なんとこれは50年も前に書かれた戯曲らしい)戦争中、軍による生体解剖に関わった男が戦後戦犯として軍事裁判にかけられるまでの短い時間が描かれる。これは戦争犯罪についての告発なのか。それならば彼の中の苦悩や、事件自体についても描かなければなるまい。だが、この台本ではそこには一切触れない。

 ならば、これは緊張感のある密室劇にしなければならない。だいたいこれは基本的には妻と夫による2人芝居だ。2人がこの極限状態の中で向き合いながら、どう変化していくのか。お互いのエゴや正義感、自分の置かれた現状、そんなものが絡み合いどこに行き着くのかが、見たい。だが、あれほど自分には何の非もないかのように言っていた夫がGHQの到着を待たずして毒を飲んで自殺する。あれでは唐突過ぎるし、だいたい何の解決にもならない。

 死を選ぶこと。妻への想い。自分のしてきたこと。良心の呵責。それを包み隠すこと。この静かな劇が描かなくてはならないことはたくさんある。これは本来サスペンス劇である。妻の心がどう変わるのか、夫の葛藤は?それを抜きにしては、成立しない。なのにその一番大事な場面はまるで描かれないまま終わるのでは納得がいかない。

 

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