習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『終戦のエンペラー』

2013-08-11 18:32:27 | 映画
 こういう歴史大作をアメリカ映画が作るなんて驚きだ。地味な映画だ。でも、かなりの製作費がなければ作れない。終戦後の東京をニュージーランドにオープンセットを建てて再現した。これだけのリスクを追いながら、アメリカ人が(監督はイギリス人だが)この素材を扱い、日本の戦後を描くのはなぜだろうか? 娯楽大作ではない。でも、アート映画ではない。どこに興味を持ったのか。天皇をテーマに取り上げ、戦犯として、天皇を捌くのか否かを話の中心に据える。これは日本人にとってはとても興味深いテーマだろうが、絶対アメリカ人は興味ないのではないか。興行的には絶対ヒットしないはずだ。それだけにこういう映画を作ってくれるのは嬉しい。奈良橋陽子さんの力がなくては成立しなかった企画だろう。

 主人公のアメリカ人将校が日本に興味を抱いたのは、大学で出会った日本人留学生に恋したからだ。でも、この映画は、ふたりの悲恋ものではない。彼女は日本に帰ってしまい、彼は彼女を捜して日本に来る。彼は彼女というフィルターから、やがて日本に恋するようになる。そのへんの彼の心情がもっときちんと描かれないことにはこの映画は意味を為さない。

 マッカーサーと天皇の会見をクライマックスに持ってきて、天皇を捌かないという結論に行きつくのだが、結果なんて分かりきっているのだ。大事なことは、その決定がどういう経緯で成立したのかではなく、なぜ、彼らが日本を植民地にしなかったのか、とか、天皇の戦争責任をどうするのか、とか、もっと大きな問題にも足を踏み入れてよかったはずだ。あるいは、反対に主人公の個人的な問題にもっと踏み込んでもよかった。要するにこれはどっちつかずの映画なのだ。

 話が膨大すぎて、落とし所が難しい。しかも、どう描いても中途半端にしかならない。結果的に、何がしたかったのか分からない映画になってしまったのが残念だ。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 小路幸也『東京バンドワゴン... | トップ | 『ワールド・ウォー Z』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。