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映画・演劇のレビュー

牛乳地獄『穴があったら入りたい』

2014-11-13 21:25:13 | 演劇
名古屋から来た若手劇団だ。大阪初進出。チラシを見たときから、ちょっと気になった。こういう一見アングラっぽい芝居は嫌いではない。だが、このチラシ、よく見ると、とてもわかりやすい。劇団名のおどろおどろしさ(地獄)と、さわやかさ(牛乳)のミックスも、実は、彼らの生真面目さではないか、と思った。

そういう先入観を持って見た芝居は、僕の想像通りのもので、そのあまりの生真面目さに驚いた。なにもそこまで、という感じだ。作、演出の桐原工務店さんは、舞台上のイメージ通りの人で、終演後のアフタートークでの、サリngROCKさんとの対話での、テレた仕草がかわいい。気負うことなく、低姿勢で必死に気配りする。礼儀正しく一生懸命芝居とかかわっている、そんな印象を抱いた。アフタートークで、「今回初めてファンタジーに挑戦しました」と語る。「でも、本当はそういうこと、どうでもいい。」と、サリngは、言う。

要するに、そこだな、と思った。ジャンルから芝居に入る必要なんかないのに、まず、そこを大事にしてしまうのが、彼の生真面目さだろう。自分の中にある沸々としたものをワケもわからず形にしたら、ぐちゃぐちゃになっちゃった、というようなスタンスはない。まず、形から入る。ファンタジーとはどういうものか、そこではどんなルールがあるか、それをどう表現するか、まずそこからスタートする。だから、わかりやすいし、見やすい芝居になる。もちろんそれは、ダメなことではない。だが、整理され、整頓された芝居は、自分が決めた枠組みから外れない。それだけでは、つまらない。

この芝居を見ながら、森絵都の『カラフル』を思い出した。死んでしまった少年が、天使に導かれて、別の男の子のからだのなかに入る。そこで、期間限定でもう一度、生き直すというお話だ。

なぜか、空から落ちていた、という冒頭部が面白い。彼女にはそれ以前の記憶はない。ただ、もうすぐ、地面に落ちて死んでしまうという事実だけが今はある。そうならないために、なんとかしなくてはならない。すると、天使のような女の子がやってきて(その子は自分のことを「女王だ、」という)世界を救って欲しい、という。そうすると、あなたの命を助けるから、と。しかも、それは簡単な行為だという。「予言の書」を渡すから、ここに書かれた通りにすればいい、ということらしい。そこから彼女の冒険が始まる。

彼女は、旅の仲間とともに、モンスターたちを次々と倒していく。やがて、ラスボスが登場する(はずだ)。

そういうお決まりの展開の中、彼女は、鏡の中の世界の女の子と出会う。それが現実世界なのだが、鏡の中と、この世界(ファンタジーの世界)が、つながり、やがて、真実があらわになる。

ストーリーはたわいもない。人生のリセットなんか出来ないけど、もし、可能ならば、というお話だ。よくあるそんな話をいかにして見せるかが作者の腕の見せ所だ。桐原さんはオーソドックスにまとめた。とても、親切な芝居だ。パントマイムを使い、セットや仕掛けではなく、役者の演技だけで見せようとするのも、好感が持てた。スタイリッシュで悪くはない。ただ、そんなこだわりも含めたその生真面目さが、芝居自身を物足りないものにする。ここには、人を不安にさせる「何か」、それがないのだ。


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