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映画・演劇のレビュー

小川洋子『最果てアーケード』

2013-01-23 20:40:40 | その他
 ここは彼岸の最果てアーケード。そこにやってくる人たちと、そこで暮らしている人たちとの一瞬のふれあいが、いくつもの小さな物語として、ここには収められてある。10話からなる連作だが、それが永遠のように思える。彼女はここにいて、さまざまな人たちを見ている。お客さんのところに商品を届ける。彼、彼女と言葉を交わす。彼女はここにいて、ずっと見ている。やがて、少しずつ、時は過ぎていく。

 ここには、お客さんが来そうもないような不思議な店ばかりが並ぶ。世界から取り残されたような店。でも、そこにもそれを必要とする人がいる。だから、店は開けられている。寂しい通りで、ひっそりと、ぽつん、ぽつんと並んだ店に客がくる。大通りの商店街からほんの少し行くと、誰にも気づかれないように、この小さなアーケードはあるようだ。ここはこの世とあの世との境目。現実の世界にそっと寄り添うようにして、こんな場所がひっそりとある。

 アーケードを歩くのが好きだ。いろんなところで、様々なアーケードと出会う。世界中どこに行っても、それはあるから。市場も大好きだ。ただ歩いて、見ているだけで、楽しい。そこでは、様々なものが売られている。華やかな場所ではなく、誰からも忘れ去られたようなアーケードがより好きだ。なんだか不思議な気分になるから。寂れた商店街み思いがけない店があったりするのもいい。

 小川洋子さんは、こんな不思議な世界が大好きだ。さりげなくそんな場所を描いて見せる。これはファンタジーではない。もっとささやかなものだ。どこにでもある現実の世界。この世の中にはこんな場所がどこにでも、そこかしこにあるのではないか。そんなふうに思わせる。





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