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映画・演劇のレビュー

『時代革命』

2022-08-31 10:05:25 | 映画

先日見た『憂鬱之島』は素晴らしいドキュメンタリードラマだった。ああいう形で今の香港を語ろうとする姿勢に心打たれた。今を見つめるためには過去から振り返る必要がある。3つの時代を3つのドラマとして再現し、それを既成の役者を使って見せるのではなく、今を生きるふつうの若者たちに演じさせる。そこから見えてくるものを劇映画として見せるのではなく、このドキュメンタリー映画の中で見せていく。いささかあざとい、と思うかもしれないが、僕は誠実な姿勢だと思った。未来の見えない香港の今を描くためのひとつのやり方だと思う。『乱世備忘 僕らの雨傘運動』の後、チャン・ジーウン監督が新たなる視点から香港の未来を見据えた素晴らしい映画だ。

さて、本作である。逃亡犯条例改正案が一方的に可決された。これはそこから始まる戦いの記録だ。こちらは真正面から2019年から始まったこの市民運動を扱った。これは戦争だ、と思う。こんな恐ろしいことが香港では起きていたのだ。もちろん当時リアルタイムで連日TVで報道はされていた。市民による抗議活動、民主化運動が香港政府の弾圧に遭う。香港警察と市民とが香港の中心街で戦う姿を僕たちは驚きをもってTVで見守っていた。だが、あれからどうなったのか、今の香港の姿は興味を失ったマスコミは報道しない。一方的に弾圧され、多くの逮捕者を出して、法案は通り、デモは鎮静化された。というか、香港ではもうデモは違法行為になる。200万人が抗議の声を上げて、戦った。自分たちの人権を守るために。でも、中国政府は彼らの人権なんか無視した。習近平を絶対の悪として描くこの映画は一方的に市民側を正義とする。この描き方は公平ではない。だが、それでいい。ここには客観的な視線なんかいらない。

感情的になるのではなく、感情的になるしかないような理不尽がそこにはあるからだ。彼ら香港人は、断固として戦う。ここで生きるためだ。自分たちの世界を守る。自分たちのささやかな人生を守るために。でも、圧倒的な権力の前では無力だ。2時間38分に及ぶこのドキュメンタリー映画は最初から最後まで、一貫して同じ姿勢を貫く。だから、映画としていささか単調で、途中から見ていて息切れする。でも、そんなことを言ってる場合ではないことは明白だ。くたくたになりながらも、必死でスクリーンを見守る。彼らの苦しみの前では、僕らがこの映画を見ることのしんどさなんか、比じゃない。(でも、見終えた時はフラフラになっていたけど)

正面から向き合う香港警察の警官たちは非情な存在だ。(彼らの言い分が描かれないのはフェアではないかもしれないが、それはこの映画のするべきことではない)一方的に武器弾薬を駆使して、無防備な市民に攻撃を仕掛ける。ウクライナの戦争でも感じたことと同じことをここでも見せつけられる。市街地で向き合う警察と市民がまるで戦場で戦う兵士たちのように見える。天安門事件では、あの戦車に向かっていく象徴的な男の映像を何度となく見たが、この映画の市民の姿は象徴ではなく、生々しいリアルとして、これでもか、これでもかと胸に迫ってくる。映画を見ていて、途中からは涙も枯れる。


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