犬童一心監督の新作だ。犬を主人公にしたファミリーピクチャーで、ほかの人が手掛けたなら、こういうのはなんだかなぁ、と思う。見たくない。でも、これは犬童作品である。やはり、見たい。しかも評判が異常に悪い(キネマ旬報の星取り表!)ので、それはおかしいと思い、見に行くことにした。犬童監督がつまらない映画なんか作るわけがない。しかも、彼は犬とか猫とかを扱う映画を何本も作っているし。名前だって犬童だし。
はやり、評論家の人たちの誤解だった。というか、まるで作り手の意図を理解していない。これはある種の寓話なのである。あのナレーションの多用はそのための仕掛けなのだ。なのに、ナレーションで説明するなんて邪道だ、とかなんとか的外れなことを書いている輩。なんだかなぁ、と思う。ちゃんと映画を見ましょう。
もちろん、これを傑作だと持ち上げる気はない。作りは甘いし、お話の展開には無理がある。特に修道院での一幕はさすがに、ちょっとやりすぎた。あの暴力夫の描写はあんまりだと思う。いつまでたっても警察が来ないのもなんだかなぁ、である。ハウの優しさに触れ男が改心するとか、ちょっと展開が杜撰。でも、宮本信子との短いエピソードがいいし、女子高生との話もさわやかだ。田中圭主演の映画のはずなのに、彼が出ない部分が半分以上ある。これはハウと彼が出会う人たちとの群像劇なのだ。
青森から1年かけて、横浜まで戻ってくる、というお話にはリアリティはない。あくまでもこれは寓話なのだと思うしかない。(そして、なんとロードムービーなのだ!)たくさんの人たちと出会い、助けられて、ハウは戻ってくる。でも、その時、彼は改めてハウとの別れを知る。ハウはもう彼の犬ではないと知る。犬がどんな気持ちで飼い主と一緒にいるのかなんてわからないけど、犬と人との心の交流は確かにあるのだろう。僕は犬や猫を飼ったことがないからそのへんのことは実はわからない。でも、この映画は納得できる。優しい青年(田中圭だから、もうおじさんだけど)と1匹の犬(もちろんハウね)の物語。童話のような絵本のような語り口で描かれるおとぎ話。これはこれで悪くないではないか。