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映画・演劇のレビュー

遊劇体『往生安楽国』

2013-10-23 21:13:24 | 演劇
 キタモトさん久々のオリジナル台本による新作。これは『闇光る』からスタートした大阪南部の山あいの町、ツダを舞台にした連作の最新作でもある。

 役場の3人が、ツダにある標高400メートルの雨恋山、その登山道の調査のためにやってきた。だが、途中で道に迷う。登山道は荒れ果てていて機能しない状態だったことも、影響した。1時間で山頂までいけるはずなのに、3時間半もかかった。ようやく山頂に辿り着いた時には、もう夕暮れになっている。今から下山するのは難しく、空模様も怪しい。仕方なく山頂にある見晴らし台で一夜を過ごすことになる。

 そこに描かれるのは、修学旅行の夜のような時間だ。タカダ青年(松本信一)は、突然の災難をそんな風に楽しみに変える。彼の上司であるキタガワ(村尾オサム)と、先輩であるミドリさん(大熊ねこ)の当惑をものともしない。2人の大人と、まだまだ子供でしかない彼の対比から芝居はスタートする。

 だが、徐々に2人の心の闇が浮き彫りにされていく。同時にタカダの中にある闇も見えてくることになる。

 このタイトルである。最初はもっと重い芝居ではないか、と思っていた。だが、実際に目にしたこの作品は決してそうではない。それどころか、さらっとして口当たりのいいものになっていた。長い暗転の後で示されるエピローグなんて、あまりに明るくて驚くほどだ。だが、そこにキタモトさんの今回のねらいがあることは、明白だろう。彼らが抱える痛みと向き合うことが目的ではない。そこからどこに向かうのかが、今回のテーマなのだ。最初に書いたまるで修学旅行の夜の子供たちの会話のような導入部のイメージこそが、この作品にとって大事なものなのである。

 激しい雨の中、行方不明になった娘の幻でもある少女と彼女を誘拐しただろう男が現れるところから、幻想の世界へとどんどんいざなわれていく。キタガワの妻と、彼らの課長の登場からラストまで、一気だ。だが、これは先にも書いたように、そんな激しい劇ではない。見終えた時、この優しさが胸に沁みる。痛ましい出来事を乗り越えて、その先へと向かう。人はそうして生きていく。


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