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映画・演劇のレビュー

『しあわせのパン』

2012-02-05 21:54:19 | 映画
 『食堂かたつむり』と同じパターンだ。こういう食を扱うファンタジーって、嫌いではないけど、なんだかとてもあざとい感じがして、どうしても身構えてしまう。いくら大好きな原田知世の久々の主演作品だとしても、いや、それだからこそ、余計に厳しくなるかもしれない。冒頭のシーンで、ちょっと嫌な予感がした。観念的な独りよがりかも、と思った。あまり甘いのも考えものだが、思い込みばかりが激しくて客観性のないものは、付き合いきれない。新人監督にありがちな自分勝手な思い込みが先走ったものはつまらない。

 だが、それは危惧に終わる。映画はこれ以上彼女の内面にはこだわらない。まず、ここでの(北海道が舞台だ!)穏やかで静かな生活にこだわり、彼女がなぜ彼と共にここに移住したのか、そこでの現実とはどんなものだったのか、とかは二の次にする。それならそれでいい。

 女性監督ならではの繊細さがいい方向に機能したならいいな、なんて、これも女性への偏見なのかもしれないが、そんな期待もしながらこの綺麗な風景とおいしそうな食事、全体を形作る甘いファンタジーの世界に身を委ねる。それだけでいい。これはそんな映画なのだ。

 3話からなるオムニバススタイルだ。それぞれのお客さんとのエピソードが夏、秋、冬という3つの季節を通して描かれていく。最後はエピローグとして春の話もちゃんとある。それはもちろん主人公である2人のお話だ。正直いうと、この映画は当たり障りのないきれいごとが描かれるだけだ。リアルな現実はないし、ファンタジーとしても、いまいちである。

 ただ、主人公2人のたたずまいには共感が抱ける。理想の夫婦像だ。大泉洋が無口な夫を演じていて黙々とパンを焼く姿に好感が持てる。知世ちゃんともども2人が何も語らないのがいい。だから、こういう夫婦のもてなす宿で癒されたいと願う人がいてもいい。これは映画だからこそ可能な夢のお話であろう。スローライフの実践だなんて思わない。こんなきれいごとは映画のなかだけのお話だと、誰もが知っている。だから、開き直って絵に描いたようなお話に終始する。これは小林聡美主演の『かもめ食堂』からの連作の延長線上にある作品でしかない。女性監督と言えばこういう路線、というレールが敷かれた感じはちょっとなんだかなぁ、と思わないでもないが、まぁ今回はそれほど目くじら立てないでおこう。

 

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