習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『R100』

2013-10-20 09:31:07 | 映画
 こんなにも自虐的な映画はない。しかも、それをギャグにしている。だが、全体のタッチはとても重い。バカバカしいと笑い飛ばすには、痛すぎる映画だ。この作品は、昭和の重苦しい空気を全身から充満させている。時代背景は特定されない。だが、明らかに今ではないほんの少し前の日本。昭和時代なのだ。セピアトーンのカラーは懐かしさではなく、やるせなさを募らせる。高度成長期に突入し、この国が安定し、豊かになっていった時代、でも、いろんな意味でまだまだ日本が貧しかった時代。たったひとりで父の帰りを待つ息子。夕暮れ時、コロッケを買って帰る父親の姿が胸に沁みる。

 ずっと昏睡状態のまま生き続ける妻。幼い息子と2人暮らし。ストレスをおくびにも出さず誠実に生きている。そんな彼の秘密。ただ、一点、普通じゃないこと。あるSMクラブと1年契約したこと。それは、日常空間にいきなりS嬢がやってきて、何らかのプレイを行う、ということだ。最初はその意外性が快感だったようだ。だが、行為は徐々にエスカレートしていき、彼の日常生活すら脅かされていく。抗議するが、聞き入れられない。それは、おまえが望んだことではないか、と言われる。警察にも行くが、なすすべもない。

 松本人志監督の第4作。今回はプロの俳優を使ってきちんと作品世界を固める。しかし、監督はまるで理屈の通らないことを見せるばかり。観客は置き去りにされ、戸惑うしかない。ラストのオチもそれが何なのか、よくわからない。男が妊娠するとか、で? と思うしかないではないか。おなかの大きな大森南朋の裸を延々見せられても、どうしたらいい? 

 派手なSMプレイがあるわけではない。大森の見る悪夢をデヴィット・リンチのように内面化していくわけではない。前述のオチも、まるで意味がない。そこにはお話自体の奥行きがない。物語がペラペラでスカスカなのに、それを映像的にはとてもしっかり作られてある。そのアンバランスが、この作品をさらなる居心地の悪さへと導く。書割然としたセットでなら、ふざけているだけ、で済まされるのだが、丁寧な美術のもと重厚なタッチで綴られる。そんなアンバランスが、この作品をとても居心地の悪いものにしている。そして、それが松本のねらいでもある。

 R100.百歳以下はおことわり。おまえたちに見せる映画ではない、とほぼすべての客を拒否している。シュールな描写は、理屈ではないから理解不可能なところで設定される。難しいわけではない。つまらないこともない。もちろん、面白いはずもない。では、何なのか? こんな映画を作らせる吉本もすごいが、堂々と作り上げる松本人志もすごい。だが、映画はすごくはない。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『アンチヴァイラル』 | トップ | ON LINE『真夜中のカ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。