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映画・演劇のレビュー

プロトテアトル『狐の声が聞こえてから』

2014-04-29 21:31:06 | 演劇
 こういう若手劇団を応援したい。そんなウイングフィールドの願いが伝わる芝居だ。だから僕もこの集団を支持する。いい芝居を見た。なんだかとても清々しい。もちろん、たまたま、彼らはウイングを公演場所に選んだだけなのかもしれない。だが、こういう彼らをバックアップすることで、関西の演劇の底上げが可能になる。今、必要なのは、おもしろい芝居ではない。本気で芝居と向き合い、表現としての演劇の可能性を信じる行為だ。演劇でしか語りえないものを、演劇で表現する。そんな当たり前のことが、こんなにも貴重なことだと思える。

 楽しい芝居をみんなで仲よく作るのも、悪いことではない。そんな演劇によるサークル活動を否定する気はさらさらない。それはそれで大切なことだ。表現のひとつである演劇が可能にするものは、そういう繋がりである。だが、ただのなかよしごっこだけでは終わらさないことも、大事だ。もちろん、それは、メジャーを目指し、大向こうを狙うことではない。自分たちの表現を信じることだ。

 この芝居を見ながらとても、新鮮だった。描かれていることが斬新だ、とかいうのではない。反対にこれは、オーソドックスでしかない。だいたい孤児院を舞台にしたお話なんていうのが、地味すぎる。しかも、不認可の施設で、院長が行方不明になって、その存亡が危ぶまれる。失踪した院長を探すためにやってきた警察の人間と、院長の姪。施設で暮らす4人の男女。彼らの織りなす数日間のドラマである。ミステリー仕立てのようにも、見えるけど、実はそうではない。なぜ、院長が消えたのか、その真相は解明されないまま、終わる。しかし、この出来事を通して、彼らが今までの、そしてこれからの自分たちを見つめることになる。変わらなくてはならないから、ちゃんと変わっていこうとする。今までの自分たちは、ぬくぬくここで、暮らしてきたのだ。変わらなくてはならない。淡々とした描写を通して、彼らの心の移り変わりが丁寧に描かれていく。

 美術、演出、台本、役者たち。みんないい。要するにこれは誠実な芝居なのだ。しかし、それってただ真面目なだけではない。自分たちの堅牢なスタイルを保ち、そのなかで見せていく。結構頑固なのではないか。そういうところもいい。


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1 コメント

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ご来場ありがとうございました。 (FOぺレイラ宏一朗)
2014-05-01 15:32:49
こんにちは。プロトテアトル主宰のペレイラと申します。この度は「狐の声が聞こえてから」にご来場いただき、まことにありがとうございます。
ウイングフィールドの寺岡さまよりお話を伺ったのですが、劇場にてご挨拶できず、申し訳ありません。
またどこかで直接お話しができればと願っております。

重複になりますが、この度はご来場いただき、まことにありがとうございました。
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