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映画・演劇のレビュー

小手鞠るい『アップルソング』

2014-08-15 16:52:41 | その他
その日の朝から読み始めて、夜ベットに寝転びながら、読んでいると止まらなくなり、400ページ近い小説を一気に読み終えてしまった。あっという間だった。ひとりの女の生涯を描く大河ドラマだ。スケールが大きい。戦争中から戦後、日本からアメリカへと舞台を移す。

 空襲で廃墟と化した町。そこで奇跡的に命をつないだ赤ん坊が主人公だ。家屋を失い、ひとりぼっちになった彼女を親戚の男の子が助け出す。(なんか、この最初の設定は、先日見た映画『私の男』と似ている)焼け跡からふたりで生きていく。

 やがて、彼女はアメリカにわたって、幾つもの辛酸を舐めながら、偶然写真と出会い、カメラマンになる。美しいものを撮りたいと望んでいたはずの彼女は、戦場カメラマンとなり、数々の悲惨な場所を駆け巡ることになる。

 ラストは、9・11である。ニューヨークで暮らす彼女を直撃したとんでもない現実。逃げ出す人たちとは反対に急いで現場に駆け付けた彼女は写真を撮るのではなく、瓦礫の中で生きている女性を助け出す。赤ん坊の頃自分が助け出されて命を得たように。だが、その時、今度は自分の命を落とすこととなる。

 戦争から戦争へ。彼女は身を挺して、生きる。この壮大なドラマが、彼女の一代記ではなく、断片として、他者の目から語られていく。最初はそれが誰なのかはわからない。最後になり初めてわかる。これは9・11の現場で彼女から命を救われた女性の視点なのだ。

 命はつながっていく。なぜ、自分が死ななかったのか。なぜ、今、生きているのか。その理由をつきつめていくための小説である。今までの小手鞠るいの作品とは全く違う。ある種の覚悟のもと、この物語は語られていく壮大な叙事詩。だが、それはスケールの大きな「大河ドラマ」ではなく、人間って何なのか、戦争って何なのかという壮大なテーマへの問いかけである。

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