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映画・演劇のレビュー

小川内初枝『うちへかえろう』

2008-04-12 09:28:00 | その他
 35歳。派遣社員。不備のあるクレジットカード申込利用者に電話をして、確認をとる。そんな仕事をしている。10数年前、恋人を寝取り行方をくらましていた姉の名前を利用者リストにみつける。なんとなく、姉に連絡をとる。

 再会、和解、家族の再生。どうでもいいようなたいしたことがない、そんな小説である。話はとてもささやかだ。しかし、ここにある痛みは、こんなにも小さいからこそ胸に響く。

 35年間生きてきて、結婚もせず、ひとりで、これからの人生に不安を抱えて生きている。今は恋人もいない。両親にもほとんど会わない。友達もあまりいない。別にもうひとりでもいいと思っている。でも、ほんとは少し寂しい。それは14年間離れていた姉も同じみたいだ。

 言葉はほとんどないけど、共鳴する姉と妹。もうすぐ40歳になる。両親はもうリタイアして、年金生活をしている。老後を二人で生きていこうとしてるのだ。昔と違い二人はなぜかとても仲がいい。それもなんだか痛々しい。老後の時間を支えあって生きようと努力しているみたいに見える。

 こんな4人が、もう一度顔を合わせるまでのドラマだ。別にそれでなんだが新しい何かが生まれるとかいうわけでもない。年末になり、仕事も休みになった頃、姉を連れて実家に行く。母は盛大な食事を用意して、ぎこちなく待っている。それだけのことだ。

 人と人との関係が希薄になり、家族の絆すらあやういものになっていく時代の気分を的確に捉えた佳作である。

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