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映画・演劇のレビュー

劇団大阪 新人プロデュース『カストリ・エレジー』

2014-03-09 21:16:28 | 演劇
 THE・ガジラの鐘下辰男の作品を武藤豊博さんの演出で贈る。昨年の『温室の花』も落ち着いたタッチの慎ましい作品で、劇団大阪の演出家として、あれはとても好ましい作品になっていたのではないか、と思ったが、今回は前作以上に武藤さんの想いが前面に出た作品で、興味深く見ることが出来た。2時間20分の大作である。舞台美術は素晴らしい。さすが老舗劇団だ。こういうちゃんと作りこんだ空間で演じられることは若い役者たちにとっては励みになる。そこにいい意味での緊張感が生じることだろう。

 芝居自体はとても丁寧に作られてあるのだが、その反動で、全体的にテンポが悪くて少し間延びするのが残念だ。うまく緊張感が持続しないのだ。だが、武藤さんは役者たちに向けてひとりひとりがちゃんと立つように指導しているから、こういう新人公演としてはとてもよかったのではないか。8人の役者たちが上手いとか下手とかではなく、それぞれが愛おしい人々として描かれてあるのがいい。そういうアンサンブルこそがこの作品の魅力なのだ。誰かが自分の個性を押し出してくるのではなく、みんなが目立つことなく、でも、ちゃんとそこに存在する。それだけでいい。いやな奴のはずのチンピラ黒木も含めて、愛おしいのだ。特定の誰かに感情移入するのではなく、どうしようもない状況の中で出来る範囲で助け合い、労わり合う姿が描かれていく。舞台からはそんな彼らの関係性が、ちゃんと立ちあがってくるのがいい。

 戦後間もない頃、生きていくだけで必死だった時代が背景だ。黒沢明の『酔いどれ天使』や『野良犬』の世界を思わせる。戦争から帰ってきたけど、生きるすべがなく、しかも、厄介な相棒を抱えて、苦労するケン(ダブルキャストで、僕が見たほうは松下和馬が演じる)が主人公。かつての上官でカッとなると自分を抑えられない小心者のゴロー(中井康太)の面倒を見ながら、今日まで生きてきた。

 芝居は、ゴローが女を殺してしまい、逃亡するシーンから始まり、たまたま出会った男の導きで、ふたりは橋の下の貧民窟で暮らすことになる。ここを舞台にして、2人が出会った人たちとの交流が綴られていく。お話としては大きな展開はない。そこでの彼らの生活をじっくりと追いかけて見せていくばかりだ。そして、運命的な悲劇に至る。

 彼らのささやかな夢が一瞬、実現しそうになるのだが、ある事件によっていきなりカタストロフを迎える。どうしようもない状況に陥り、ケンは銃の引き金を引く。ここにはふたりの夢見た世界なんかない。絶望的なラストだ。だが、そんな感動的なはずのシーンも含めて予定調和に思えるのは、なぜだろうか。

 芝居はあまりに丁寧に作られすぎて、この作品の本来持つはずだった混沌としたものが、整理されすぎた。もっと野蛮で荒々しい不条理な世界への怒りが前面で出て、破天荒な作品になってもよかったのではないか。これではいささか上品すぎた。


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