原作が出たとき、読んだ。壮絶な話だった。あまり海外文学は読まないのに、なぜ、これは読んだか、忘れていた。今回、映画化を知って、今頃なぜ、これが映画になるのか、不思議に思った。あの嫌な気分がよみがえってきた。きっと嫌な映画に違いない、と知りつつも、劇場に行ってしまった。何が、そこまで僕を引き付けたのか。アゴタ・クリストフの小説は91年に日本で出版されたから、今から20数年前に読んでいる。その時、受けたショックがよみがえってきた。この寡黙な映画は、あの原作を見事に映画化した。
1944年から翌年まで。戦争末期。ハンガリーの国境地帯の村。ドイツ軍の顔色をうかがい、ひっそりと生きるしかないそんな場所で暮らす。幸せだった両親との暮らしの終わり。戦争に行く大好きだった父親から離れ、疎開させるため双子は、母親に連れられこの村にやってくる。鬼のような祖母に預けられる。迎えに来るから、と言い、母は去る。祖母は、家を出て20年も音信不通だった娘を雌犬と呼ぶ。だから、彼らを「メス犬の子供」と呼ぶ。
これはかわいそうな子供たちの話ではない。彼らの生きるための戦いを描く。2人の少年は、周囲の悪意に対して、同じように悪意で向き合うことで、生き延びる。タイトル通り悪童になるのだ。強くなる。負けないための訓練をする。お互いを傷付け合い、痛みに耐える。何が正しいか、何が間違いなのか、なんてわからない。体制が変われば、価値観は変わる。戦争にとって、勝者が正義だ。それだけ。
少年たちの目線からすべてが描かれるから、今置かれた状況は見えにくい。正確には見えない。だから、不安でしかない。彼らと同化して、同じ目になり、世界をみる。もちろん、もう少しで戦争は終わる。ドイツは降伏する。そんなこと、歴史の授業でならって、誰でも知っている。だが、この映画の中にいる僕はもう彼らと同じ恐怖と不安の中にいる。だから、そんなこと、どうでもいい。
しかも、映画の途中でドイツは負ける。戦争は終わる。しかし、終わっても、彼らは幸せにはならない。映画は終わらない。さらなる困難が待ち受けるばかりだ。本当に戦争は終わったのか、それすら、わからない。母は、確かに約束通り迎えに来た。知らない男と、赤ちゃんを抱えて。拒否する。捕虜になっていたという父も迎えに来た。一緒に国境の向こうに逃げようと、言われる。だが、もう彼らは以前の彼らではない。無邪気な子供はそこにはいない。あんなにも恋い焦がれた父母に対してすら、冷徹な目を向ける。母も、父も信じられえない。そして、彼らは目の前で両親を失う。しかし、悲しくはない。死んでいく母や父を冷たい目で見据える。祖母の死に対しても同じだ。彼女の願いをかなえてやる。
ラストシーンで、別々の道を選び、別れていく2人の姿を見送る。あのシーンが感動的だったのは、人はひとりで生きていくしかないという、強い覚悟をそこに感じたからだ。この映画を見た翌日『ブッダ・マウンテン』という傑作を見るのだが、あの映画も同じことを言っていた。こんな幼い子供たちに教えられる。戦争は彼らをたった1年でこんなにも変えてしまった。もう後戻りはできない。
1944年から翌年まで。戦争末期。ハンガリーの国境地帯の村。ドイツ軍の顔色をうかがい、ひっそりと生きるしかないそんな場所で暮らす。幸せだった両親との暮らしの終わり。戦争に行く大好きだった父親から離れ、疎開させるため双子は、母親に連れられこの村にやってくる。鬼のような祖母に預けられる。迎えに来るから、と言い、母は去る。祖母は、家を出て20年も音信不通だった娘を雌犬と呼ぶ。だから、彼らを「メス犬の子供」と呼ぶ。
これはかわいそうな子供たちの話ではない。彼らの生きるための戦いを描く。2人の少年は、周囲の悪意に対して、同じように悪意で向き合うことで、生き延びる。タイトル通り悪童になるのだ。強くなる。負けないための訓練をする。お互いを傷付け合い、痛みに耐える。何が正しいか、何が間違いなのか、なんてわからない。体制が変われば、価値観は変わる。戦争にとって、勝者が正義だ。それだけ。
少年たちの目線からすべてが描かれるから、今置かれた状況は見えにくい。正確には見えない。だから、不安でしかない。彼らと同化して、同じ目になり、世界をみる。もちろん、もう少しで戦争は終わる。ドイツは降伏する。そんなこと、歴史の授業でならって、誰でも知っている。だが、この映画の中にいる僕はもう彼らと同じ恐怖と不安の中にいる。だから、そんなこと、どうでもいい。
しかも、映画の途中でドイツは負ける。戦争は終わる。しかし、終わっても、彼らは幸せにはならない。映画は終わらない。さらなる困難が待ち受けるばかりだ。本当に戦争は終わったのか、それすら、わからない。母は、確かに約束通り迎えに来た。知らない男と、赤ちゃんを抱えて。拒否する。捕虜になっていたという父も迎えに来た。一緒に国境の向こうに逃げようと、言われる。だが、もう彼らは以前の彼らではない。無邪気な子供はそこにはいない。あんなにも恋い焦がれた父母に対してすら、冷徹な目を向ける。母も、父も信じられえない。そして、彼らは目の前で両親を失う。しかし、悲しくはない。死んでいく母や父を冷たい目で見据える。祖母の死に対しても同じだ。彼女の願いをかなえてやる。
ラストシーンで、別々の道を選び、別れていく2人の姿を見送る。あのシーンが感動的だったのは、人はひとりで生きていくしかないという、強い覚悟をそこに感じたからだ。この映画を見た翌日『ブッダ・マウンテン』という傑作を見るのだが、あの映画も同じことを言っていた。こんな幼い子供たちに教えられる。戦争は彼らをたった1年でこんなにも変えてしまった。もう後戻りはできない。