なんだか素敵なこのタイトルに惹かれて読むことに。というか、ほしのさなえだからそれだけでも読むけど。3話からなる中編連作である。ワン・エピソードが100ページくらいのボリュームというのがいい。短編ではなくほぼ長編の趣きである。軽井沢の英国風の古いけど趣きのあるおしゃれなホテルが舞台になる。ここはもともとは戦前に建てられた外国人の別荘でそこを改築した。こじんまりとした、だけど落ち着いた瀟酒なホテルだ。
冒頭から一気にお話に引き込まれてしまう。主人公は過労から駅のホームで転落する。ブラック企業で酷使されたから。仕事をやめて(入院中に倒産した)軽井沢の実家に戻る。そこがこのホテルである銀河ホテルだ。今は彼の母親が社長をしている。だから彼はこのホテルで生まれた。
タイトルの『銀河ホテルの居候』というのはそんな彼のことかと思ったが、実はそうではない。このホテルでもう20年働いている従業員である男のことだと、後で気づく。苅部は20代の頃ここにふらりとやって来てホテルの裏にある小屋で暮らしている。小説が始まって40ページが過ぎた頃にようやく登場する。
彼がさりげなく登場して、手紙室でワークショップを行う。これはそこを訪れる人とのお話である。先の青年の話から始まって、老齢の女性、仲良し3人組の女子大生の話が続く。苅部は手紙室にいて疲れたお客様をサポートする。あくまでも主人公は客の側であり、彼は脇役に徹する。
最初の2話が素晴らしいのに、最後の女子大生の話はいきなりつまらなくなる。扱ったテーマのせいか。それまでのレベルを維持できないのは描かれることがありきたりの将来への不安でしかないからか。お話としては最初のエピソードと呼応して挫折から未来へとつながるけど、図式的であまりしっくりこない。おばあちゃんの老後の人生を描く2話がバランスがいいから好き。
この先、これはシリーズ化されそうだけど、あまり期待できない。それよりもこの一作の完成度を上げて欲しかった。1話の失意の青年と苅部の話だけで1冊を作った方がよかった気がする。これは中編ではなく、長編向けの作品である。