文藝賞受賞作品である。子どもの頃、死んだキイちゃんの存在。あれから10年、彼の墓参りに行く。これはそれだけの話。18歳の時、上京した。仕事をクビになり、7万円貰った。帰郷する。
ストーリーが展開しない作品にはイライラさせられることが多いのは僕が小説の中に安易にお話を求めているからだろう。だからこの作品にもなかなか乗れなかった。半分くらいまで読んで一度本を置いた。たった100ページ程度の本なのに一気読みが出来なかったのだ。その段階でこの作品の先は見えている。キイちゃんのお墓に行き、何もないまま終わるはず、だと。
故郷に帰って記憶の底にある彼の存在と向き合うことで何が見えてくるのか。明確な答えはきっとない。そのことが作品の力になる場合もあるだろうが、これはそんなタイプの小説ではないことは半分読んだ段階で明白である。ならばこれはどこに行き着くのか。
後半キイちゃんが幻のように登場して、彼女に(明確な性別はないから、彼かもしれないが)語りかける。幼い頃に死んでしまった彼の面影を見る。この村を離れて10年。東京であてのないまま暮らしきた。帰郷は単なる思いつきでしかない。ここに戻って暮らすわけではないだろう。この先何をするのか。
墓を暴き、骨を掘り出す。キイちゃんが帰ってくるはずもない。たとえそんなことをしてもなんの意味もない。故郷の呪縛から解き放たれることはない。家族に会いたいわけもない。それどころか、2度と会いたくもない。なのにここに戻ってきたのは何なのか。東京でも居場所を無くす。この先は見えない。それどころかキイちゃんの墓にも辿り着けない。