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映画・演劇のレビュー

10デシリットル『ソノハコニワ』

2011-06-07 22:14:05 | 演劇
『めぞん一刻』を思わせるオンボロアパートに集う人たちの人間模様を描く。管理人さんとオーナーの青年を中心にして、ここで生活する男女はみんな同じ大学の卒業生だ。ここはもともとは大学の寮だった。でも、入居者が減ってしまって、いつのまにか、卒業生がそのまま居座ることになった。彼らにとってここは実に居心地がいい。ずっと学生のままのノリでここで生活する。彼らはまるで家族のように共同生活を送る。

いつまでもこの心地の良い場所と時間が続けばいい、と思う。しかし、いつの日にか、やがて、ここを出る日が来ることはわかっている。でも、今は気の合う仲間との安らかな時間の中で、安住していたい。甘えていることは重々承知だ。

そして、その日がやってくる。それを彼らは誠実に受け入れていく。子供のようにだだをこねることはない。その事実を受け止め、そこから新しい生活を始める。自分たちの人生の第1歩にする。取り壊しというオーナーの選んだ選択を素直に受け入れていく。

 よくあるドラマのような諍いはここには一切ない。その潔さが、この芝居をとても気持ちのいいものにしている。お話は、おきまりのワンパターンに見せかけて、一番大事な部分では、ありきたりの轍は踏まない。作り手の覚悟の程がしっかり伝わってくる。

それは中途半端なセットを作らずに、役者たちの力だけで、この空間を作り上げるという選択にも明らかだ。このアパートが心地よいものであることを、彼らひとりひとりの姿を通して、観客に感じさせる。大体このオンボロアパート自体が快適なのではない。ここに集う仲間との時間が彼らを和ませるのだ。

ことさら見せ場を作る必要もない。そこに彼らがいることで、それだけで充分なのだ。そんなふうに思える芝居である。そのことが、この芝居の成功を裏付ける。向かいのマンションの浪人生や、娘と2人暮らしの中年男とか、周辺の人物のエピソードを挟み込んで、構成しているのもいい。


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