池田千尋監督の新作。一見、高校生の男女が主人公のよくある青春映画。だけど池田監督である。ありきたりでも、単純でもない。この手の映画としては考えられないくらいにとてもテンションが低い。話自体はよくある少女漫画レベル(実際マンガの映画化だし)でお話にはツッコミどころ満載だけど、それをこの低いテンションで見せていくから、あまり腹は立たないし、なんだかさらりとしてるから、それを素直に受け止められるくらい。話の展開は早いけど、あっさりしているからそこも気にならない。
そんなことより大切なところはこの町のリアルさだ。舞台となる北陸の町(石川県の七尾市)が等身大に描かれる。そこは殊更、田舎ではなく、もちろん都会でもない。ちゃんと彼らがここで暮らしている、と思える。そんなリアリティがこの映画にはちゃんとあるのがいい。
眠れなくなった(それは今に始まったことではなく、ずっとそうだったが)彼らは夜の天体観測を始める。二人は今は誰もいない天文部の部室で出会う。この高校には立派な天体観測施設があるが、クラブは部員がいないから活動をしていない。誰も来ないから昼寝をする場所にしていたけど、ここを自分たちの場所にするため天文部を復活させる。普通なら部員2名では認められないはずだが、都合よく認められて、さらには夏合宿もふたりで出来る。(あり得ないけど、)そんな夢のような安易な展開なのだが、ここもさらりとクリアしてしまう。彼女が心臓の病いを抱えているという設定も安易だけど、そこもさらりと提示。キラキラ青春映画なら、噴飯もののお話をさらりさらりと(ぬけぬけと)展開する。これは確信犯だ。脚本は高橋泉。(池田監督と共同)
では、池田千尋は何をしようとしたのか?まず、主人公を演じた奥平大兼と森七菜が素晴らしい。ロケーションの素晴らしさと相まってこのふたりがいたから、この映画は納得いくものになったのだろう。夏の話なのに、暑くない。それどころが、とても涼しい映画になっているのも凄い。ふたりの男女が出会い、冷静になって自分たちを見守る。自分のことなのにまるで他人事みたいなクールさ。だけど、少しずつそんな現実を受け入れて、自分を信じようと思う。いつ死んでもおかしくない彼女が明るく元気に生きている。そんな姿を見て彼は生きることの美しさを知る。彼女と一緒にいたいと思う。これはそんな少年の姿を描くラブストーリーだ。池田監督は信じることの美しさを知っている。