ケン・ローチが引退を撤回して作ったこの熱い映画を目のあたりにして、作りたいもののためなら、いくつになっても立ち上がり、立ち向かっていこうとする彼の姿に感動した。年老いてもやりたいことがあり、訴えたいことがあったなら、こんなにも力強く、優しい映画が作れるのだ。そんなあたりまえのことを改めて教えられた。
前作である『わたしはダニエル・ブレイク』は僕にはちょっと納得がいかなかった。問題意識はわかるけど、それがどこに向かうのかが見えてこない気がしたからだ。告発だけなら誰だってできる。大事なことはその先に何を見出すのかだ。宙釣りにされた彼の想いは壁に描かれた自分の名前だけではおさまらない。
それに反して、今回のラストシーンは前作以上に宙ぶらりんにされたまま、突き放したラストのようにも見えるのだが納得させられた。主人公がそれでもバンに乗り走り出す瞬間に胸が突かれた。たとえ何があろうとも一歩もひかない、という強い意志をそこに見た。たとえそれが間違った行動であったとしても。
悲惨の極みのようなこの映画のラストに見える光は生きようとする意志である。この現実を前にして諦めてしまっては何にもならない。
フランチャイズの宅配便、訪問介護。幸せになるために必死になって働く夫婦の前に立ちはだかるもの。そして二人の子供たちの孤独。兄の万引きが引き起こす出来事は彼らの生活を破壊してしまう、だが、こんな毎日の方がおかしい。4人家族の生活を破壊してしまう。4人家族が幸せにならない現実に向けて、ケン・ローチは断固としてNOという。戦う姿勢を崩さない。痛ましい現実に先にあるもの、それが確かにここにはある。