3つのプレゼン直前の舞台裏。1984年のMacintosh、88年のNeXT Cube、98年のiMac。歴史的な瞬間に立ち会うために集まる観客は、彼の登場を待ちわびる。すさまじい演出。あざといけど、観客を熱狂させる、時代のカリスマ。独裁的なやりかたで圧倒する。確かに天才なのかもしれないが、狂っている。そんな男に周囲は振り回される。
全く説明なし。待ったなしで始まり、終わる。問答無用で、まくしたてる。いきなりだから、状況すらよくわからない。ただただ圧倒され、せりふを追いかけるだけで精一杯。映画から振り落とされないように、必死にしがみつく。傲慢だけど、そんなサディステックな映画が、それでもおもしろい。ダニー・ボイルの強引な作劇に振り回される2時間2分。
それにしても、ものすごい量のせりふの応酬。(字幕は大変だっただろう)しかも、最初は誰が誰だかよくわからない。その上、コンピュータの専門用語みたいなのが飛び交ったりして、もう見ている僕たちを拒絶しているような映画なのだ。あまりのことに、めまいがするし。こんな映画見ていられない、とすら思う。しかし、そのうち、これがなんだか快感になってくる。ジョブズというクレージーな男のわがまま放題な行為を彼の視点から見ていくことで、彼の中にある混沌が、自分の中にも入って来る。感情移入というのとは少し違うけど、これはこれで心地よい。よくわからないまま、見ていたら、そのうち彼と相手との関係性も少しずつ明確になってくるし。
メインのお話だけではなく、どんどん成長していく娘(そりゃぁ、5歳から19歳まで、ですから)との話を中心に据えて、人として問題だらけのこの天才の特別な1日、その3本立、である。リアルタイム(に近いはず)のプレゼン直前のほんの短い時間の3つがスケッチがドキュメントされる。ピンポイントで、そこだけから、ジョブズという男の全貌を描こうとする野心的な作品。先行する同名タイトルの映画(こちらも、いい映画だったけど、わかりやすい普通の映画だった。)とは、全く違う切り口で、同じ人物の伝記ドラマを見せきる。
主役を演じたマイケル・ファスベンダーがすばらしい。この挑発的な映画において、堂々と変人を演じる。怒濤の2時間に酔う。クラクラするけど、楽しい。