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映画・演劇のレビュー

エイチネムピー・シアターカンパニー『女殺油地獄逢魔辻』

2019-07-22 21:36:07 | 演劇

 

殺されたお吉と殺した与兵衛だけではなく、この世界にいるすべての人たちが、ゆっくりと舞台から、消えていく。それを、まるで道行きを見つめるようにして我々は見守る。やがて、すべてが静かに闇の中へと吸い込まれていくようにして舞台は幕を閉じる。ここに生きるすべての者たちが消えていくのだ。そんなラストシークエンスが素晴らしい。

 人の世の業、のようなもの、それを金と女に象徴される欲を中心に据えて、描く。好き勝手して生きる油屋の放蕩息子の所行を追いかけながら、彼の心の中に或る孤独を冷静なタッチでみつめていく。なぜ殺さなくてはならなかったのか。わからない。

 そんな理由のない衝動殺人に秘められた深い心の闇、ほんの一瞬魔が差しただけ。でも、それは彼が今までずっと感じていたものであり、彼の本心がそこには滲み出ている。様式美とも言える身体表現によって象徴的に描きだされるこの狭い世界での人間関係、その中からテキストを大きく改変するのではなく、基本は原作に忠実に、でも、起きた事件、ここに生きる人々、をできる限り客観的に、距離を置いて見つめていく。そんな視点が笠井さんらしい。いつものように象徴的な空間とマイムによって、リアルではなく、観念でこの近松世界を視覚化して現出させてくれる。なんだかよくわからないまま、引き込まれる、そんな不思議な緊張感のある舞台だった。

 


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