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映画・演劇のレビュー

外山薫『息が詰まるようなこの場所で』

2023-06-13 08:04:00 | その他

湾岸エリアのタワマンで暮らす3組の夫婦。誰もが羨むような暮らしのはずなのに、彼らにも憂鬱がある。ここでは住人は3つの階級に分類される。最上階、中層階、最低辺。住む住人の生活レベルからの身分差は歴然。資産家、サラリーマン、地権者。あからさまな生活力の違いは、住む階に明らかに象徴される。

そんな息が詰まる場所で暮らす人たちの1年を綴る。息子たちは6年になり、中学受験を目指す。過酷な戦いは彼らだけでなく、親たちも同様。春から始まり翌年の春まで。2組の夫婦の視点から描かれた4章仕立てで描かれる。最初は下層階のサラリーマン夫婦の妻。次はその夫。後半は最上階の資産家夫婦。こちらもまず妻から。最後は医者の夫の告白に。(3組の家族が描かれるけど、地権者の夫婦のエピソードは直接は描かない)

そこでは、息子の受験を巡る問題を起点にしたそれぞれが抱える「憂鬱、焦燥、煩悶、決断」(各章のタイトルになっている)が綴られてある。彼らのようなエリートにも悩みはある。当たり前だけど。人ごととして客観的に醒めた目で見ていてけど、だんだん彼らに感情移入してくる。人ごとではなく自分も同じだと思う。

エピローグでふたりの息子たちのその後が語られる。高校生になり、大学生になった彼らの悩みはまたもや受験だ。大学受験、就職試験。だが、彼らは明るい。未来をしっかり見つめている。なんだか涙が出てきた。どこにいても、何をしていても、誰もが自分と戦っている。息が詰まるようなこの場所から、しっかり自分を見つめて未来を目指す。これはとても気持ちのいい元気になれる小説だ。


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