「第44回大阪春の演劇まつり」前半最後のプログラムだ。今年から新たに参加された団体である「アートひかり」の公演。素敵なチラシに心惹かれて劇場に向かう。難波のサザンシアターだ。ここは小さくて、でも、とてもゆったりしていて、なんとも素敵な劇場である。小劇場なのに映画館仕様の椅子に座ってのんびり芝居を楽しむ。
『オズの魔法使い』を下敷きにした優しい芝居だと想像していたけど、なかなかシビアな話で、少し驚く。
オーディションに受かった4人の男女(オーディションにはこの4人しか来てないみたいだけど)が『オズの魔法使い』に出演することになるところから始まる。だが、公演は主催者のトラブルから中止になり、途方に暮れる。仕方ないから4人は不在のオズ(主催者)を探す旅に出る。それぞれの抱える夢を叶えるために。
SNSで繋がった世界はリアルのはずなのに、現実感がなくリアルからは程遠い。人々はSNSの現実とリアルの狭間で右往左往する。ドロシーはとあるアジアの国からやってきた技能実習生で、レタス農家で働いていた。自らを奴隷だったと言う。夢を抱いて日本にやってきたのに過酷な現場で酷使され、心身共にボロボロになっている。カカシさんにブリキさん、ライオンさんというお決まりの仲間たちもまた、個人的な事情を抱えている。
こんな感じの設定で、詐欺師のオズと向き合うお話はなかなか面白いはずだ。だけど、残念ながら、芝居は弾まない。見ていて歯痒いばかりで、イライラしてしまう。片言の日本語を話すドロシー。設定は上手いけど、それが上手くお話に絡まないから、なんだか空回りする。おとぎ話とインターネットの孤独、この国が抱える幾つもの社会問題。描くことが盛りだくさんなので、整理できてないのが、つらい。着地点を見失った芝居は、いきなり終わる。せっかくの素敵な設定なのにそんな消化不良が悔しいと思う。
ドロシーと仲間たちの幸せ探しの旅が、この現代社会でどんなふうになるのか。オリジナルのアメリカと、この芝居の日本はどう違うのか。時代背景の違いも含めて描いて欲しい。夢が実現する場所としての「日本」だった、はずなのに、悪夢の場所になったこと。外国から来たドロシーだけでなく、この国で生まれ育った3人も同じ。不満と不安を抱えて生きている。彼らの夢とどう向き合うのか。描くべきことは山積みだ。