こんな映画があっていいのだろうか。あまりに説明不足。しかもお話に説得力はない。なんなんだ、これは、と唾棄してもいい。まぁ、取りあえずは主人公の青年(永瀬廉)の見た甘美な悪夢ということで、理解したらいいのだろうけど、それだけのことに113分も付き合わされるのが苦痛という人も多々いるはず。リアルなお話ではないけど、こんな気分になる気持ちはわからないでもない、というところで受け止めれると一応は腹は立たないだろう。すべてが彼の見た幻想世界の出来事だ。だから何があってもおかしくはない。黒服の男に導かれて、東京を廃墟にする計画を実行する。真っ赤な東京タワーだけは残す。同時に美しい先輩(女)に導かれて甘美な体験をする。黒服は柄本佑、先輩は池田エライザ。
東京に出てきて、大学に入って数か月。全くなじめないし、腹立たしいことばかりで、ストレスがたまるばかりだ。冒頭の大学教授(渡辺真起子だ!)に噛みつくシーンがとても刺激的で、一気にこのお話に引き込まれる。でも、その直後、彼女にコーヒーを頭からかけられるシーンで一気に現実に引き戻される。お互いの大胆な行動をさらりと見せたあのシーンは秀逸。ここから始まるこのあり得ないようなお話を主人公の永瀬廉のクールな視点から淡々と見せていく。
自分の夢や理想と現実はまるで一致しない。こんなはずじゃなかったと思う。そんな誰もが感じたことが、ここには描かれる。そこからジャンプして妄想世界へとお話は突入していくのだが、映画はそれをあからさまな妄想としては描かない。現実として描いていく。彼はこのありえない現実に取り込まれていく。ウサギにではなく別々のふたりの男女に導かれて。爆破テロとかくれんぼ、というふたつがこのお話を動かしていく。彼と彼女が主人公の僕を不思議の国へと連れていく。
この不快で甘美なこの妄想世界でまどろむうちに、ラストの破滅に至る。これを作り手の意図通り、絶望のその先にある光を描く象徴的な映画として受け止めれれたならいい。そうでなければがっかりな映画だとあきらめるしかない。