このシリーズ第3弾は完結編だったはず。しかも、お話のクライマックスで終わる前作を受けて、本作はそこから始まるので、全編がクライマックスになる。2時間11分の最初から最後までが過激なアクションの応酬。息つく間もないとは、このことだろう。
だけど、これはきつい。どれだけ凄いアクションであろうとも、そればかりが続くとさすがに飽きる。映画には緩急が必要だ。この映画は最初か . . . 本文を読む
ダニー・ボイル監督作品なのだが、実に甘い映画で、彼らしくない。『トレインスポッティング』とは言わないまでも、せめて『スラムドック$ミリオネア』くらいの甘さでとどめておいてくれたなら、よかったのだけど、今回は甘甘。でも、砂糖菓子のような映画だけど、これはこれで悪くはない。全編に流れる誰もが知っているビートルズのヒットナンバーを背景にして、とんでもない世界に迷い込んだ男が、信じられない . . . 本文を読む
安部公房の『密会』がこんなにもかわいいファンタジーになってしまった。阪上さんの手にかかると、すべてがいちびり一家の世界に染まってしまう。それってなんだか素敵なことだ。テキストをおろそかにしたわけではない。入り口は同じだけど、出口が違うのだ。
『密会』の描く怖さを手掛かりにして、病院という迷宮へと迷い込んでしまった妻と夫の魂の旅を描く。救急車でここに運び込まれたはずなのに、妻がいない。いくら探して . . . 本文を読む
ブラック企業の新入社員ふたり。彼女たちは、そこで何を見るのか。よく働く女性たちと全く無能な男性社員たち。この図式がまず、おもしろい。バリバリ働く女たちは疲れている。ストレスが溜まって、イライラしたり、無気力になったり。そんなこんなで、彼女たちがラクダになって砂漠をサバイバルするお話が始まる。
今回ミツルギさんは「仕事と生きていくこと」をテーマにした。そんなスケールの大きなお話なのだけど、いつも通 . . . 本文を読む
昨年の『序 ビッグバン/抜刀』に続く2作目だ。今回は討ち入りまでを描く3部作の第2章。2時間20分の大作である。だが、ここで描かれるのは吉良対大石の戦いではない。主君の仇討、血沸き肉躍る活劇でもない。なんとテーマはお金と政治。忠臣蔵という美談をこういう視点から切り取るのか、という驚きがある。そして、そこでは派手は立ち回りなんていらない、会話劇でスリリングな舞台が立ち上がる。だから、討ち入りのシーン . . . 本文を読む
中編作品の2本立て。竹内銃一郎が自らの代表作をセレクトして放つ贅沢なプログラム。しかも『今は昔、栄養映画館』は自らが主演した。松本修との2人芝居だ。ファン垂涎の一作だろう。チラシにあるが「あと3年、あと5本」を旗印にして、これから竹内氏の最後の戦いが始まる。
これに先駆け2017年から18年にかけてリーディングによる公演「竹内銃一郎集成」が連続上演されたが、そこからは竹内さんが自らの演劇人生の幕 . . . 本文を読む
DCコミックの映画化だけど、従来の映画とは全く違う。なんとこれはアクション映画ではないのだ。しかもヒーローは出ない。ヴィランであるはずのジョーカーが主役なのだけど、彼が悪の限りを尽くすとかいうわけでもない。アベンジャーズを中心にしたマーベルの怒濤の新作ラッシュも一息ついたところで、こんな映画が登場するなんて思いもしなかった。しかも、これが大ヒットしている。地味で暗くて、見終えたときには、暗澹たる気 . . . 本文を読む
凄い緊張感を強いられる。主人公の4人が抱えるプレッシャーをそのまま観客にも投げかけるからだ。4人と書いたが松岡茉優演じるヒロインに集約される。一応群像劇だが、彼女の視点からぶれない。原作は膨大な大作で、あれをそのまま2時間の映画にすることは不可能だ。しかも、ことばで書かれた音楽を、映画は実際の音楽として提示する。ピアノを聞かせる。その音で納得させるし、感動させなくてはならない。これは簡単なことでは . . . 本文を読む
80分という上演時間がとてもここちよい。それ以上になればきっと退屈する。あるいは、彼らの内面に立ち入ることになる。そうするとこの芝居の持つ空気が損なわれる。2人芝居である。大杉栄と伊藤野枝ということを知らずに見ていたらこれは何なのか、と戸惑うことになるかもしれない。だけど、本当はその方がいいかもしれない。誰とも知れず、とある夫婦の会話劇。3つの時間がどこにつながるのかは、わからないまま、ただなんと . . . 本文を読む
こんなにも気分の悪くなる映画はなかなかなかろう。井口昇の映画は、いつもそんなところがあるのだけど、今回は今までの比ではない。凄まじい。井口監督は今まで低予算映画のなかで直接的な描写で、チープでグロテスクなものを見せてきたけど、今回はそういうわけではない。それどころか、こんな内容なのに、この映画はとても美しい。特に空の色。その広がりと抜けるような青さ。彼らの抱える閉塞感がこんなにも美 . . . 本文を読む
全体的にテンポが遅い。演出の黒澤隆幸がとても丁寧に見せていくからだ。だから台詞も聞き取りやすい。わかりやすい。この家庭劇を勢いで見せたオリジナルに対して、今回はじっくりと彼らの関係性を描き、何がここで起きているのかをきちんと伝えていこうとする。ただ、描かれていることが理詰めではないので、丁寧に見せていくことが作品を深化させていくことには必ずしもならない。それどころか、随所に作品の穴 . . . 本文を読む
上田一軒による演出ではなく、横山拓也による作、演出のこの新作は、今回も象徴的な空間が、芝居自身の描く日常のスケッチと相俟って印象的だ。こういう舞台美術を使いこなせるって凄い。リアルな空間ではこの内面世界は表現できない。しかも、台本は日常のスケッチなのに、である。これはクールで心の奥深くに突き刺さる見事な作品になった。最初はささやかな恋愛劇に見せかけて、重いテーマにまでたどり着く。見 . . . 本文を読む
大竹野正典「ぼつじゅう企画」の一作だが、この作品が一際異彩を放つのは、これが初期の20代の大竹野作品だからだ。20代前半の彼の中にあった恐怖がストレートに出た作品を演出の栖参蔵はまるで当時の大竹野がとりついたような熱意で作品化する。だが、それは若さ故のつたなさを提示するのではない。若さ故の熱をキープしたまま、確かな技術で冷静に適切な演出によって再現する。見事なリメイクだ。
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チャン・イーモウの最新作は『HERO』『LOVERS』に続く武侠映画だ。先の2作品も凄かったが今回はその比ではない。この作品を作るために今までの作品があったのではないか、と思わせるくらいに完璧な映画だ。娯楽アクション映画という枠は外さない。だが、そのストイックな映像と、ドラマ作りはエンタメの域を超えている。とことん突き詰めてしまうと、活劇のはずなのに、それがアートになる。墨絵のタッ . . . 本文を読む
政界を描くコメディ映画なんていう大胆な試みを平気でやってしまうのは三谷幸喜だからこそ。でもこれをシリアスにやられたりしたら、これはもう無理。この題材で先日の『新聞記者』のような映画は日本では作れないし、作ったとしても、受け入れられないだろう。
その点、この映画の適度なゆるさは素晴らしい。それはないわ、と思いつつも、それだからこそ、楽しめるし、そこから本当の政治の在り方が見えてくる . . . 本文を読む