大ヒット中のアニメ映画だが、僕は原作漫画もアニメシリーズも見たことがなかった。だから何の先入観もなく初めてこの『スラムダンク』という作品に接する。単体として、1本の映画として、これを見る。2時間4分と幾分長い映画だが最初から最後までずっと緊張が持続する素晴らしい作品だった。
バスケットボールのインターハイ。映画はその「とある1戦」だけが描かれる。20分ハーフで計40分の出来事が124分で描かれて . . . 本文を読む
昨日の授業でこの作品の紹介をするとき、生徒にタイトルを『光のなかにいてね』と言ってしまった。最近映画や小説のタイトルを間違えたり忘れることが多い。年を取ると誰もがそうなるのかもしれないが、まだ十分若いはずなのに、やばい。先日、「夏目漱石の『夢十夜』で一番面白い作品は授業で取り上げた1話と6話もいいけど、第9話だけどね」と言った後で少し不安になって調べると、健さんの話は第10夜だった。翌日にちゃんと . . . 本文を読む
全9話からなるNetflix配信ドラマ。寒竹ゆり監督、脚本で満島ひかりと佐藤健が主演する恋愛ドラマだ。こんなベタな話で大丈夫かと思うような内容なのだが、これがなかなかよくできている。ありえないような嘘が気持ちいい。こんな恋があればいいな、という感じで見ていられる。誰もが体験した甘くて切ない(でもどこにでもありそうな)恋物語を美化してそこに重ね合わせるといい。自分もヒロインや主人公になり、高校時代を . . . 本文を読む
ようやくこの小説を読めた。図書館で予約してから1年くらいになるのではないか。僕はあきらめたけど、妻が予約を続けてくれてようやく順番が回ってきたのだ。よかった、よかった。文庫オリジナルだと思っていたら、そうではなかった。2018年に単行本としても出版されているようだ。当時はそこまで話題にはならなかったのだろうか。昨年文庫になり大ヒットした。
3000円というしょぼさが素晴らしい。僕にぴったりだ、と . . . 本文を読む
瀬々敬久監督の新作だから、内容は関係なく見る。今回はシベリアの強制収容所が舞台となる。1945年ソ連の軍事侵攻で捕虜となった日本兵たちの苦難の日々が描かれる。10年間にわたる苦難の日々が綴られていく。二宮和也が主人公が乗り移ったような渾身の演技を見せる。だからこの映画はこんな話なのに、目を離せない。リアルだ。
この手の戦争映画は最近日本では作られない。お金がかかるし、あまりヒットしないからだ。だ . . . 本文を読む
ある日、彼のところにカラスが来た。窓辺にカラスがやってきて、しゃべってきた。「ヨコヤマさん。第一森林線が突破されました」と。大体彼は横山ではない。誰なんだそいつは。何なんだこのカラスは、というところからスタートする。これはそんなありえないことから始まる小説だ。でも、ファンタジーではない。リアルな話だ。ほんの少し先の近未来でのできごと。恋人と別れひとりぼっちになり、生きがいもなく、ただなんとなく生き . . . 本文を読む
1932年、ドイツによるユダヤ人収容所。そこに入れられたひとりのユダヤ人青年。彼は自分をペルシャ人だと偽ることでこの地獄で生き抜くことになる。明日、瀬々敬久監督の新作『ラーゲリより愛を込めて』を見るのだが、たまたまその前哨戦という感じで同じように強制収容所での日々を描くこの作品を見た。
地味な映画だが、これは力の籠った大作だ。なのに、日本では(というか、大阪では)たった2週間ほどミニシアターで1 . . . 本文を読む
2022年度のノーベル文学賞を受賞した作家アニー・エルノーが、自身の若き日の体験をもとにつづった短編小説「事件」を映画化し、2021年・第78回ベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞したという鳴り物入りの映画だ。確かに悪くはない。そして、こういう映画が高く評価されるのはいいことだとは思う。
だけど、これがいい映画だかどうかは別の問題だ。というか、そんなことではない。これは好き嫌いの問題だ。見ながら僕 . . . 本文を読む
寺地はるなの最新刊だ。楽しみにして読んだのだが、なのに今回はあまり乗れなかった。こんなことはめったにないことだ。これもまた最近はやりのコロナ禍の話だ。最近の映画や小説はコロナばやり。要するにようやくコロナを描くことが可能になったということなのだ。もちろんコロナが収束したわけではない。それどころか今も変わらない日常は続いている。来月からは2023年ではなくコロナ4年目に入る、と言ってもよかろう。まだ . . . 本文を読む
廣木隆一監督3週間連続新作公開の最終作品。3本ともまるでタッチの違う作品だが、いずれも彼の得意ジャンルだろう。要するに彼はなんでも出来る職業監督なのだ。だけど、ただ器用にこなすのではなく、確実に自分のテリトリーにしっかりと取り込んで作家の作品として仕上げることができる。職人であると同時にアーティストでもある。しかも早く仕上げることも出来る。なんだか便利屋みたいだけど、いろんな意味で凄い人。
そん . . . 本文を読む
これは甘い小説だ。安易な展開だ。でも、悪くはない。まだ幼い娘を病気で亡くし、そのショックから妻と別れひとりぼっちになった男が、ある日一人の女の子を拾う。少女は過去の世界からここにやってきたようだ。そんな行き場のない彼女と暮らすひと夏の物語。(そして、コロナ禍という状況をうまく話に取り込んでいるのも見事。)
実は彼女は、というよくある展開になるのは必定だが、でもうまく話を作った。なるほど、と思うし . . . 本文を読む
昨年中国で大ヒットした作品らしい。ということはお涙頂戴の映画かもしれないと少し警戒したけど、静謐で美しい映像の予告編が素晴らしかったので見た。
正解だった。これはなんと衝撃的な傑作だったのだ。主人公アン・ラン役をあの岩井俊二監督作品『チィファの手紙』のチャン・ツィフォンが演じた。彼女が圧倒的に素晴らしい。無口で無表情。でも、頑なな強い意志を持つ。こんな映画が検閲を通過して中国で公開されたくさんの . . . 本文を読む
大学時代、泉鏡花が好きであの膨大で読みにくい全集を読破した。『草迷宮』や『春昼』が好きだ。この秋、久々に金沢に行った。泉鏡花記念館を初めて訪れた。そして泉鏡花ゆかりの地を歩いた。懐かしい。40年前の自分がよみがえる。一番最初に読んだのが(御多分に漏れず)この『高野聖』だった。これが鏡花文学への入口だろう。
初演も見ている。難解な作品だった。あまりに抽象化しすぎて、観念的。空間造形の見事さ。象徴的 . . . 本文を読む
青山美智子の新刊『月の立つ林で』はタイトル通り月にまつわる5つのお話で、5人の男女の「今」を描く。彼らは、たまたまタケトリ・オキナという男性のポッドキャスト『ツキない話』を聞く。毎朝7時に配信されるオキナの10分間の声を通して彼らが少しだけ変わっていく姿が描かれる。それはうまくいかない毎日にうんざりしながら、でも前を向いていくしかない日々の中でのほんのちょっとした安らぎ。
5人のエピソードが微妙 . . . 本文を読む
凄まじい映画だった。これはホラーか。いや、どこにでもあるような親子の愛憎劇なのだが、凄惨極まる。先日見た『グリーンナイト』も想像の斜め上を行くような映画だったがこれもまた想像を絶する。その思いもしない展開に圧倒される。母と娘の話だということは宣伝からも明白だが、こんなわけのわからない展開を見せる映画だとは思わなかった。
最初は母親の目から見た事実が描かれる。戸田恵梨香演じる母の証言だ。次は同じ出 . . . 本文を読む