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カズオ・イシグロ「わたしを離さないで」
2011年08月13日 / 本
カズオ・イシグロの長編第6作、「わたしを離さないで」です。
ショッキングな設定なのでネタバレ注意なのですが、作者のお墨付きもあり物語の早い段階で明らかになるので構わないでしょう。臓器提供を目的にクローン人間として生まれてきた主人公達の青春物語です。
保護官に指導されて生まれ育ったヘールシャムにある施設の時代、卒業して外部世界に徐々に慣れていくコテージの時代、介護人から提供者となり使命を終えていく時代。3つの時代で構成されています。
キャシー、ルース、トミーの間に起こる細かな出来事を一つ、一つ積み上げて物語は進んでいきます。傷付き易い幼少期、成長期の繊細な心の動き、葛藤、残虐性を見事に捉えた表現がこの小説の肝になっています。
特異な設定ではあるのですが、保護官に厳しく育てられたヘールシャム時代が普通の人間であれば親に守られた幸せな子供時代、そして提供者となり死ぬ運命も誰もが迎える晩年に擬えられていて、一般人の人生と変わらない同一性があることが分かります。それ故に共感を持って主人公達と泣いて笑って悩んで苦しみます。
「NEVER LET ME GO」、COMEが両者が近づく表現で、GOは両者が離れる表現だったと記憶しています。文字どおり「わたしを行かさないで」あるいは「わたしを独りぼっちにさせないで」といったニュアンスのある原題なんでしょうか。「離さないで」という訳も成る程と思います。
いずれにしても、キャシー、ルース、トミーが育った故郷のヘールシャムや仲間達から離れ離れになりたくない心細い気持ちがストレートに表現されていて、切なさを超えて、心が痛みます。途中からは主人公達にかなり感情移入して読み進めます。久しぶりに読書の醍醐味を味わえました。
カセットテープを使ったカバーイラストも秀逸です。「日の名残り」と並んでカズオ・イシグロの代表作、つまり時代を代表する一作といえると思います。
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