カズオ・イシグロ「日の名残り」

                

 カズオ・イシグロの長編第3作「日の名残り」です。これは再読。改めてイギリスの内面にある上品な美しさの世界にどっぷりと浸かることができました。執事を主役として、召使、女給を登場人物と据えているのがユニークです。

 同じく執事として勤めあげてきたスティーブンスの父親の衰えを描いたシーンを覚えていて、やはりこのシーンが印象的です。
 執事としての品格を追い求めてきた人生、その面では成功者、勝者であったが、一人の人間の人生としてはどうだったのか。回想と旅先での感情の発露。素晴らしい余韻が残ります。

 強いて整理すれば、「日の名残り」は初期の最高傑作、「わたしを離さないで」が中期の最高傑作です(最高が2作あるのはオカシイのですが)。現在、著者は57歳、これからの2~3作が楽しみ、待ち遠しいです。

 「日の名残り」、「わたしたちを離さないで」の翻訳は名文家の土屋政雄氏です。全7作とも翻訳は高水準で恵まれていますが、しっとりした詩的な表現は土屋氏がなんといっても上手いです。


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