クアトロのお客様が徐々に徐々に聞く耳を持つようになった。そのことは嬉しくてなりませんし、まさにそれは私の努力の致すところと、そのように思っています。
チーズの取り合わせを注文すると、クアトロの父の説明が始まる。
「こちらのチーズは、イディアサバルといいまして、スペインとフランスの国境沿いにあるバスク地方の名産のチーズでありまして、羊のチーズをスモークしたものでありまして、バスク地方の文化としましては、・・・」
お客様は早くチーズを食べたいのだが、クアトロの父の話を聞いてやらないと食べられないことを悟り、フムフムなどと相づちを打っておく。
「このチーズ美味しかったですね、それでどこのなんて云うチーズでしたっけ」
やはり聞いていなかったことは多いのだが、美味しいチーズにはもう一度聞く耳を持つものである。
実際は、クアトロの父の努力の致すところではなく、美味しいチーズがあればこそお客様は聞く耳を持つのである。