「ガタガタうるせーんだよ、このヤロー」
「サッシカイヤが新しいワインを出したから、どうっだっていうんだよ、バカヤロー」
「まあ、兄貴聞いて下さいよ」
イタリアのスーパートスカーナと云う世界を切り開いた伝説のワイン“サッシカイア”を擁するテヌータ・サン・グイド。
そのテヌータ・サン・グイドからカベルネとサンジョベーゼが手を組んだ新たなワインが登場、イノシシの牙と呼ばれる“レ・ディフェーゼ”。
サッシカイアの次の時代を切り開くべきワインだ。
その評価は高く、味わいは滑らかさの中にも深みのあるサッシカイアらしい高級指向のワインだ。
そのレ・ディフェーゼがクアトロに殴り込みをかけたから事件だ。
「おう、クアトロの父に云っとけ、俺にも飲ませろってなバカヤロー」
「先輩、リカゾリがボルゲリに進出したの知ってますよね」
「うるせえな、知らねぇよバカヤロー」
「そのリカゾリのボルゲリがクアトロにあるって云うのも知らなかったですか」
「バカヤロー、知らなくって悪かったな、とっとと教えねえとぶっとばすぞ」
バローネ・リカゾリは、イタリア・トスカーナのキャンティ・ワインの名門である。
バローネとは男爵のことだから、リカゾリ男爵の造るキャンティである。
このリカゾリ家は1000年前からキャンティというワインを築いたキャンティの生みの親と云われている。
さらに、このリカゾリ家からはイタリアの首相も輩出している名家だ。
1867年日本では坂本龍馬が暗殺された年にイタリア王国の首相だったのが鉄の男爵と呼ばれたリカゾリ男爵だ。
そのバローネ・リカゾリは、現在の当主フランチェスカによるキャンティワイン品質の改善は著しい。
そして、キャンティワインの改革のその先の戦略として、スーパートスカーナと呼ばれる高級ワインを産出するボルゲリ地区にもこのバローネ・リカゾリが進出した。
ボルゲリならではの、カベルネやメルロなどのボルドースタイルのセパージュによるこのワインの出来はとてもセンセーショナルだ。
「男爵だかなんだか知らねーけどよ、なんだよ、ウメーじゃないか、コノヤロー」