今でこそ、僕は仕事でコピーライターを兼ねたり、プライベートで小説を
執筆したりしているが、昔は、本が大嫌いだった。
中学生の頃なんて、唯一購読していたのは「週刊少年ジャンプ」くらい。
もう少し記憶を掘り起こしても、歴史だけは好きだったので、家にあった
百科事典の「日本の歴史」と「世界の歴史」くらいだ。
しかし、それも図や写真がメインの本なので、いわゆる“活字”だけの
本とは言えない。
とにもかくにも、小説やエッセイといった、文学的な活字のみの本とは
一切無縁の人間だったのだ。
高校入学後、ある男と親友になった。
その男とは、同じ中学校出身だったのだが、中学時代は、クラスも部活も
家の地区も違ったのでまったくと言っていいほど疎遠だったのだが、同じ
高校に進学してから、急になかよくなった。
トモユキ、という名前だった。
僕より格段に頭のいいヤツだった。学校の成績はいつも優秀だった。
でも、僕と同じような音楽が好きで、服やファッションに興味を持っていて、
煙草や酒も嗜み、女の子に興味があって、スケベだった(笑)
つまり、僕より勉強がよく出来ただけで、普通の10代の男だった。
或る日・・・高校1年の夏だったと記憶している。
僕がトモユキの家に遊び行った時のことだ。
彼が、僕に一冊の本を貸してくれた。
小説だった。
手渡された本の装丁を目にした僕は、
「俺、小説なんか読まんよ」
と、軽く拒否したのだが、
「まぁ、いいから読んでみろや」
と、軽い口調でトモユキは僕に薦めた。
仕方なく、僕はカバンの中にその小説を仕舞い込んで家路に着き、その日の夜、
ヒマつぶしのつもりでその小説をめくった。
一発で、引きこまれた。
何が理由で、どうして引きこまれたのか、分からない。説明したり解説するのが
野暮なほど、僕はその小説の世界に飲み込まれた。
世の中に、こんなに人を夢中にさせる表現の手段があるのだということを、16歳の
僕は、その時初めて知ったのだ。
その小説は、村上春樹の「風の歌を聴け」だった。
それから20年の時間が過ぎ、僕は今、本と普通に接して生きている。
毎週、何らかの本を読んでいる。
そして、まさかまさかまさか、アマチュアと言えども、自分自身が小説を書くように
なるだなんて、予想だにしていなかった。
トモユキは、高校卒業後、関西の大学に進学した。
数年前まで年賀状のやりとりはしていたが、
今では、それも途絶えた。
でも、きっとどこかで元気にしていることだと思う。
人は、人生の途上で様々な人と出会う。
そっと身体の表面を撫でる程度の軽い出会いもあれば、心臓を鷲掴みにされるような
出会いもある。
僕にとってトモユキは、明らかに後者だった。
彼と出会わなければ、今の僕は確実に違う人間になっていただろう。
どんな人間になっていたか考えても不毛な想像だが、きっと、今よりも浅い人間に
なっていたのではないだろうか。
僕は、今日も、新しい本を読む。
僕は、今日も、新しい小説を練る。
僕は、これからも様々なことを、考える。
執筆したりしているが、昔は、本が大嫌いだった。
中学生の頃なんて、唯一購読していたのは「週刊少年ジャンプ」くらい。
もう少し記憶を掘り起こしても、歴史だけは好きだったので、家にあった
百科事典の「日本の歴史」と「世界の歴史」くらいだ。
しかし、それも図や写真がメインの本なので、いわゆる“活字”だけの
本とは言えない。
とにもかくにも、小説やエッセイといった、文学的な活字のみの本とは
一切無縁の人間だったのだ。
高校入学後、ある男と親友になった。
その男とは、同じ中学校出身だったのだが、中学時代は、クラスも部活も
家の地区も違ったのでまったくと言っていいほど疎遠だったのだが、同じ
高校に進学してから、急になかよくなった。
トモユキ、という名前だった。
僕より格段に頭のいいヤツだった。学校の成績はいつも優秀だった。
でも、僕と同じような音楽が好きで、服やファッションに興味を持っていて、
煙草や酒も嗜み、女の子に興味があって、スケベだった(笑)
つまり、僕より勉強がよく出来ただけで、普通の10代の男だった。
或る日・・・高校1年の夏だったと記憶している。
僕がトモユキの家に遊び行った時のことだ。
彼が、僕に一冊の本を貸してくれた。
小説だった。
手渡された本の装丁を目にした僕は、
「俺、小説なんか読まんよ」
と、軽く拒否したのだが、
「まぁ、いいから読んでみろや」
と、軽い口調でトモユキは僕に薦めた。
仕方なく、僕はカバンの中にその小説を仕舞い込んで家路に着き、その日の夜、
ヒマつぶしのつもりでその小説をめくった。
一発で、引きこまれた。
何が理由で、どうして引きこまれたのか、分からない。説明したり解説するのが
野暮なほど、僕はその小説の世界に飲み込まれた。
世の中に、こんなに人を夢中にさせる表現の手段があるのだということを、16歳の
僕は、その時初めて知ったのだ。
その小説は、村上春樹の「風の歌を聴け」だった。
それから20年の時間が過ぎ、僕は今、本と普通に接して生きている。
毎週、何らかの本を読んでいる。
そして、まさかまさかまさか、アマチュアと言えども、自分自身が小説を書くように
なるだなんて、予想だにしていなかった。
トモユキは、高校卒業後、関西の大学に進学した。
数年前まで年賀状のやりとりはしていたが、
今では、それも途絶えた。
でも、きっとどこかで元気にしていることだと思う。
人は、人生の途上で様々な人と出会う。
そっと身体の表面を撫でる程度の軽い出会いもあれば、心臓を鷲掴みにされるような
出会いもある。
僕にとってトモユキは、明らかに後者だった。
彼と出会わなければ、今の僕は確実に違う人間になっていただろう。
どんな人間になっていたか考えても不毛な想像だが、きっと、今よりも浅い人間に
なっていたのではないだろうか。
僕は、今日も、新しい本を読む。
僕は、今日も、新しい小説を練る。
僕は、これからも様々なことを、考える。