大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・国つ神の末裔 一言ヒトコ『ちょっと、あなた』・1

2018-01-27 06:31:08 | 小説5

国つ神の末裔 一言ヒトコ・1    
『ちょっと、あなた』



 昔、雄略天皇が葛城山へ狩に行った時、山中で、自分たちと同じ身なりをした一行に出会った「何者だそなたたちは!?」そう尋ねると、天皇そっくりの者が、こう言った「吾は悪事も一言、善事も一言、言い離つ神。葛城の一言主の大神なり」

 これは、その一言主の末裔の物語である。 

 
 莉乃は最近怯えている。

 最初は塾の帰り道だった。
「よう、きみ可愛いじゃん。よかったら車で家まで送っていくけど」
 ワンボックスが微速で莉乃の横に着け、声をかけてきた。最初は、それで済んだが、次は塾の帰り道で待ち伏せされ、しつこく付きまとわれた。

 莉乃は怖くなって、塾を辞めた。

 三日ほどは無事だったが、四日目には学校の帰り道で待ち伏せされるようになった。
 気弱な莉乃は、親にも先生にも相談できず、帰り道を変えて撒くことしかできなかった。

 やがて、その道も読まれてしまった。

「避けることないじゃん。車で楽しくドライブして、お家に送ってあげようってだけじゃん。ねえ、莉乃ちゃん、付き合ってよ~」

 同時に車の中から、数人の男の下卑た笑い声がした。

 莉乃は、一目散に車が入れない生活道路に入った。車を降りて追いかけてくる気配がした。

 いくつか角を曲がり、自分でも知らない旧集落の道に入ったときに声がした。

「ちょっと、あなた」

 若い女の声であった。

 声がする方向に首を向けると、古い祠が目に入った。莉乃は必死で祠の裏に隠れた。

「チ、こっちへ行ったと思ったんだけどな」
「てめえが、グズグズしてっからだろう!」

 男たちの声に言葉も無く、莉乃は目をつぶった。男たちの気配が無くなったので目を開けると、目の前に自分が居た……。

「隣町のチンピラよ、ちょっと頭に乗ってるようね。やっつけておこうか?」
「で、でも……」
 莉乃は、混乱した、自分ソックリな人間が、自分がやってみたいと思うことを言ったのだ、驚きが先になり答えようがなかった。

「任せといて!」

 そう言うと、莉乃そっくりな女の子は祠の裏から飛び出し、莉乃は、そこで意識が無くなった。

「し、仕方ないわね、車で送ってもらうだけよ」
「そうだよ、変なことはしないよ……俺たちがしたいと思っていること以外はな」
 車は、山中の道に入った。男たちは全部で四人だった。後ろのシートはまっ平らにされ、いつでも女の子を押し倒せるようになっていた。

「あにき、もうここらへんで!」

 子分各の少年が上ずった声で言った。
「待てよ、味見は、オレが先だ。おめえらは手足を押えとけ、カメラ忘れんな」
 兄貴格が、ズボンのベルトを外しながら、迫ってきた。
「や、やめて!」
「これからやる楽しいことは録画するからな。警察なんかに垂れ込んだら、SNSで流してやるからな……」
 男は、莉乃のソックリの制服に手をかけた。
「キャー、やめて!」
 莉乃のソックリは、思い切り男の股間を蹴り上げ、男が悶絶している間に車を半裸で逃げ出した。
「待て、このアマアアアアアアアアアアア!!」

 男たちが追いかけてきたが、そこまでだった。

「婦女暴行の現行犯で逮捕する!」

 なんと、山中と思っていたのは街の警察署の真ん前だった。
 そして莉乃ソックリの女の子は、可愛いが、全くの別人になっていた。

 気が付くと莉乃の目の前に、自分のソックリがいた。

「もう大丈夫だからね。もう付け狙われることはないし、警察から呼び出されて事情を聞かれることも無いから」
「あの……あなたは?」
「一言ヒトコ、また縁があったら会いましょ」

 で、気づくと莉乃は、自分の家の前に立っていた。

 ヒトコの久々な仕事だった……。

コメント
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