イスカ 真説邪気眼電波伝・08
『MASCHERA大成功!』
「フフ、偽りの魔王ルシファーに魂を売りしディアブロ能力者漆黒よ。そなたの九尾鞭はささらに千切れ、使い魔共も数多のポリゴンの砕けとなって潰え去った。もはや、そなたに、この夜魔クイーン・オブ・ナイトメアに抗する術はない。マスケラの仮面と共に滅ぶがよい。食らえ我が堕天使の雷、メテオインパクトオオオオオオオオオオオ!!」
人の目には見えないサタンの力を宿したごとく突き出された両掌から裂ぱくの電光が発せられ、数瞬の間漆黒が陰になり陽になってスパークすると九体の漆黒はのたうち回って上下のソデにハケ、クイーン・オブ・ナイトメアはジャンプしながら旋回しゴスロリ衣装を閃かせると月の守護神アルテミスの如き決めポーズになり、文化祭舞台部門会場である体育館は割れんばかりの拍手のスタンディングオベーションの嵐となった!
あれだけ難産だった『マスケラ~堕天した獣の慟哭~』は主演女優佐伯さんの突然の開眼によって目出度く幕を閉じる。
佐伯さんが覚醒したおかげで、門田は、たったニ十分で行き詰った脚本を書き上げ、父たる作家のDNAを受け継いでいることを全校に知らしめた。
「いいえ、佐伯さんが彗星のごとく覚醒してくれなければ、非才な僕には書き上げられませんでした」
「いいえ、わたしこそ、門田君やクラスのみんなに支えられて今日の舞台を踏めたんです」
互いを褒めたたえる幕間インタビューには――やっぱり、わたしの目に狂いはなかった――校長先生の血圧を満面の笑顔と反比例して穏やかな数値に落ち着かせるという効果まであった。
晴れがましいことが苦手なオレは、興奮のるつぼと化した体育館をそっと抜け出した。
体育館の熱気のせいか、思いのほか外気が冷たい。秋本番の向こうに早手回しに冬を感じてしまうのはマイナス方向に敏感すぎる感性のせいかもしれない。
クラスの舞台劇が上々の首尾におわったことはオレみたいなヤサグレでも仄かに嬉しい。嬉しいんだけど、そんな顔を人に見られるのも嫌だし、人に見られなくても居心地が悪い。
似合わぬ火照りをクールダウンさせるために中庭を目指す。しかし中庭には、文化祭で雰囲気が出来あがったアベックが三組も……オレはスルーして自販機に六十円を投入してパックのコーヒー牛乳を買おうと思う。文化祭なので売り切れている公算が大だったけども、自販機は正直にパックを吐き出した。学食の最大の収入源は自販機だ。オーナーのオジサンは心得ていて何度も補給していたんだろ。
――意外に冷えてる――
冷却が間に合わず生温いのを覚悟していたので嬉しくなる。
パックを持ったまま本館裏に回る。
本館裏は、グラウンドに降りるためにコンクリートの雛壇になっていて、最上段は等間隔に生け垣になっている。生け垣に隠れたベンチに腰掛け、パックにストローを差し込む。
ズズズーーーっと吸い込んだところで、生け垣の向こうから声が掛かった。
――そっち行っていい?――
聞き覚えのある声だった。