大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・イスカ 真説邪気眼電波伝・23「中庭の藤棚」

2018-01-29 16:04:04 | ノベル

イスカ 真説邪気眼電波伝・23

『中庭の藤棚』

 

 

 ビクリとして振り返った佐伯さんは無防備だった。

 

 無防備に驚いていても佐伯さんは美人だ。ひそめた眉に日ごろ見せない可愛ささえ滲ませていて、その下の目はうっすらと涙があふれている。

 その美しさと可愛さと涙に狼狽えて、佐伯さん以上に狼狽えてしまった。

 あ……。

 手にしたキーホルダーに気づいて小さく声を上げ、招き猫みたく顔の横でおいでおいでをし、教科書を腋に挟んだままの左手で出口を指さした。

 ここじゃまずいから、外に出て話そうというジェスチャーだ。

 

「拾ってくれたのね、ありがとう」

 藤棚まで行くと、渡す前にお礼を言われる。

「あ、はい、これ……」

「やっぱ緊張してたのね、荷物持ちかえた時に落としたんだ」

「えと、あ、じゃ……」

「待って」

「え……?」

 振り返ると、佐伯さんはベンチに座って、自分の横をホタホタと叩いた。

「え、あ……うん」

 佐伯さんのすぐ横に座るなんて初めてだ、自分でも分かるくらいにドキドキする。

「わたしね、三宅先生に質問に行ったの」

「え? あ、ああ」

「あ、ひょっとして三宅先生の名前知らなかった?」

「え、あ、うん」

 半年以上も習っているのに、ちょっと恥ずかしい。オレって、どんだけ学校に気が向いてねーんだ。

「ハハ、やっぱ影の薄い先生だもんね、薄いままにしときゃいいのに……ついこだわっちゃうのよね」

「なにかこだわったの?」

「板書と説明が間違ってるんで、質問しにいったの」

「え、あ、すごい」

 オレは質問どころかロクに聞いてさえいない。イスカに躾けられてノートは取るようになったけど、まるで古代文字を写してる感じで、中身なんか気にも留めていない。

「巣鴨でA級戦犯が処刑された日が間違ってたのよ、先生は12月24日って書いたけど、実際は23日」

「え?」

 不用意に反応してしまった。そんな細かいことって思っちまったんだ。

「そうよね、細かいことよ。テストにも出ないでしょうし……先生はね『日本人へのクリスマスプレゼントのつもりだったんだ』って言ったのよ」

「23日だったら?」

「23日は天皇誕生日。クリスマスプレゼントどころか、えげつない当てこすり。たぶん先生は間違えて覚えてしまったのよね、それを気の利いた話のつもりで、ま、余談の範疇の話だから、わざわざ質問に行くことも無かったのにね」

「そんなことないよ、間違いは間違いなんだから先生も素直に認めなきゃ、あんな逆切れは……」

「あ、やっぱ、聞いてた?」

「あ、あ、それは……」

「ううん、仕方ないわよ。キーホルダー返そうとして戻ってきてくれたんだから……それよりも、わたしの話わかってくれてありがとう。でも、つまらない話だから、もう、これで忘れてね……って、自分から話しておいて可笑しいわよね」

「え、あ、ううん。そんなことないよ、誰でも人にぶちまけたいことってあるよ!」

「でも、これでせいせいした!」

 佐伯さんの明るさに、つい笑ってしまう。佐伯さんもアハハと笑って、二人の笑い声が中庭に響いた。

 

 おまえらあああああ……なにが可笑しいいいいいいいいいいい!!

 

 ビックリして目をやると、中庭の入り口に鬼の形相で三宅先生が立っていたではないか!!

 

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高校ライトノベル・国つ神の末裔 一言ヒトコ・3『3月10日の大空襲』

2018-01-29 06:48:33 | 小説5

国つ神の末裔 一言ヒトコ・3
『3月10日の大空襲』



 昔、雄略天皇が葛城山へ狩に行った時、山中で、自分たちと同じ身なりをした一行に出会った「何者だそなたたちは!?」そう尋ねると、天皇そっくりの者が、こう言った「吾は悪事も一言、善事も一言、言い離つ神。葛城の一言主の大神なり」 これは、その一言主の末裔の物語である。 


 ふと昼寝から覚めると、朝だか夜だか一瞬分からないことがる。

 今日のヒトコが、そうだった。
 ただ神さまの末裔なので、そのスケールはハンパではない。
「あ、朝……なんだ午後二時か……」
 そう呟くと、ヒトコは、もう一眠りしようと思った。今日はさる病院の入院患者になっている。この病院の内視鏡手術の失敗が多いので、そのヘタクソさぶりと、名利目当てのいい加減さを告発するために。

 しかし、もう一度時計を見てびっくりした。

 置いていた電波時計ではなく、レトロなベルが頭に乗った目覚まし時計だった。病室も変だ……部屋の日めくりを見てびっくりした。
 昭和二十年三月十日になっていた……。

「タイムリープしちゃった」

 神さまの末裔であるヒトコには時々あることである。元に戻れと念ずれば、あっさり元に戻る。
 ヒトコは、日付がひっかかった。

 昭和二十年三月十日……東京大空襲の日だ!

 ヒトコは、元に戻るのをやめた。これは自分の意志を超えた何ものかの御業に違いない。ご先祖の一言主神……さらに、その上の……。 役割は見当がついた。

 今夜、歴史に残る大空襲が行われ、東京は100万人が罹災、10万人の犠牲者が出る。史上最悪の空襲が数時間後に行われる。それを阻止するのが自分の役割であろうと……。
 325機のB29がやってくる。搭乗員は一機あたり11人。3575人の乗組員を一度にたぶらかすには、ヒトコの力は、あまりにも非力だ。女子高生一人に化けたり、アイドルのソックリさんに化けるのは容易い。でも、3575人……どうやっても手に余る。

 パス・ファインダー機(投下誘導機)によって超低空からエレクトロン焼夷弾が投弾、爆撃地域が照らし出された。

 後続のB29たちは、照準器を使うことも無く、ただ編隊を組んだまま、モロトフのパンかごと言われる爆弾を投下すれば済むだけの話だ。

「爆弾倉扉開放……」

 325人の爆撃手が静に呟く。機銃などの重量物は全て下ろして、通常の倍の7トン近い爆弾が搭載され、今まさに投下されようとしていた。
「全弾投下……」
 全機の機長が静かに命じた。
「全弾投下!」
 爆撃手が復唱し、全弾の信管が抜かれ弾倉架から爆弾が投下された……はずだった。
「なんだ、今の衝撃は?」
 全てのB29の弾倉は開いておらず弾倉架から外れた爆弾は、弾倉の中を転がった。
 爆撃手は、その勘で弾倉が開いていないことを感じ、二度三度と弾倉開閉ボタンのOPENのボタンを押した。

 しかし、それはCLOSEであった。

 大人数に化けることはヒトコにはできないが、B29の弾層扉のボタンを誤認させることは、さほど難しくはない。
 325機のB29は弾倉の中を転がるうちに信管が反応、B29は次々と弾倉から火を吐いて墜ちていった。
 325機のB29の大半は避難のために東京湾を目指していたが、その大半が空中で燃え尽きバラバラの破片になった。

 325機のB29は喪失され、3575人のアメリカ兵が、そして落ちてきた機体のために2000人ほどの日本人が犠牲になった。

 東京大空襲は完全に失敗に終わった。第二次大戦で失われたB29、700機の半分が一度に失われ、アメリカは数か月にわたって、まともな空襲をおこなうことができなくなった。しかし、戦争の大勢を変えることはできず、終戦が一か月延びた。いろんなところに影響が出た。

 ヒトコは分かっていたが、十万人の命を助けずにはいられなかった。

 ヒトコの最初の挫折だった。

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