イスカ 真説邪気眼電波伝・15
『ブスの姫騎士!?』
めずらしくイスカの西田さんが休んでいた。
佐伯さんも、昨日ほどに絡んでこないし、食堂で隣の席になることも無かったし、数学の野崎もオレを当てることがなかった。
佐伯さんは聡明な人だから、あまり接近して、オレが目立つことを避けてくれたんだ――クラスメートが幸せそうなのって、はたで見ていても嬉しいじゃない――というのが佐伯さんの心情なんだ。野崎は意外に正解を出してしまうオレに興味を失ったんだ。イスカは……ノビノビできるから余計な詮索はしない。
で、まっすぐ下校したオレは、部屋に直行して『幻想神殿』にダイブする!
二日もログインしてなかったので、気分はアセアセ💦
イントロの水道のところではクリックしまくり! クリックしたところで、イントロのキャンセルはできない。キャンセルしようと思ったら、一度戻ってオプションの(イントロ設定)を変えなければならないのだ。
HP・MPを確認すると、すぐに四十八層の森の我が家を目指す。
あ、あれ……!?
家が無くなっていた。
一瞬システムトラブルかと思った。アイテムウィンドウをいて確認する。
グラフィック上のトラブルでもアイテムリストのは残っているはずだ……ところが、オレの家はアイテムリストからも消えていた。ハッキングされて盗られてしまったか!?
オレの家はビジュアル的にはボロだが隠れ家のカテゴリーに入っているので、基本非課金のオレには高い買い物だった。ピーボアを三千頭も狩って手に入れた代物なんだ。こんな地と涙の結晶を盗っていく奴なんか許せねー! 運営のセキュリティーに訴えて永久追放にしてやる!
バチコーン!
さすがセキュリティー、クリックしたときの衝撃もハンパねー!……と思ったら、張り倒されていた。
「な、なにしやがる!?」
頭押えて振り返ると、シルバーの鎧をキラキラ煌めかせて女騎士が立っていた。
「家なら叩き売ったわよ、そのお金で装備買っといたからアイテムウィンドウさっさと開ける!」
「お、おまえは!?」
「あたしよ、あたし!」
ガチャリとヘルメットを取ると、現れた顔は、こないだのあいつだ!
「ブ、ブス!?」
「そう、ブスよ。ほら、レベル28の黒鎧とアイアンソード買っといたから……あんたのアイテムリストに入れなきゃ装備できないでしょうが!」
「ま、待て! これって、オレの家売った金でか?」
「あったいまえでしょ、ピーボア三千頭なんて狩ってなんかいらんないわよ」
「ん、なに、勝手なことを! セキュリティーに訴えてやる! んでもって、永久追放だ!」
「寝言は寝てから言ってよね、ちゃんと合法的な取引でやったわよ。ほら、これが契約書」
目の前に不動産売買の契約書が現れた、ちゃんとオレのIDとサインがしてある。
「さっさとする!」
ヘタレのオレは圧に弱い。言いたいことは山ほどあるけど、従順にアイテムをリストに移して装備ボタンをクリックするオレだった。
「う~ん、馬子にも衣裳ってか、案外サマになるじゃん。一応姫騎士を守護する黒騎士に見えてんじゃん! じゃ、シュッパーツ!」
「シュ、シュッパーツって、どこに行くんだよ!?」
「決まってるじゃん、最上階の神殿目指してお姫様を助けんのよ!」
「いや、そんな、ゲームクリアなんて目指してねーし! だいいち、なんでオレに無断でこんなことできんだよ!? お、オーイ!」
スタスタ歩いていくブスを追いかけるのが精いっぱいだった……。