イスカ 真説邪気眼電波伝・19
『さあ、時間を動かすわよ』
登校して教室に入り、席に座ってボーっとしていたら、知らないやつばっかでタマゲタことがある。
そんなシュールなことがあってたまるか! と言われるかもしれないが、本当にあった。
種を明かせばこうだ。
深夜アニメを観ていたら、めっぽう面白くてさ、オレも、あのアニメのキャラならいいなあ~と思いながら寝たんだ。
そしたら、夢を見たんだ。ほんとうにアニメのキャラになって女の子と仲良くなるんだ。
目が覚めても印象が強烈でさ、玄関出たら、女の子が迎えに来てるって設定にして、そのエア女の子といっしょの登校を思い続けたわけさ。口下手なオレにいろいろ話しかけてくれるし、オレのつまらない返事にも「え、そうなんだ!」とツインテール揺らして楽しそうに反応してくれる。もう夢中で教室まで行って、その子は隣の席でさ、話の続きをしてくれる。
「そこ、オレの席なんだけど!」
声がして驚いた。知らない男子がオレを睨んでるんだ。
で、気が付くと、周り中しらない奴ばっかで声も出ないんだ。つい今まで横の席に居た女の子も居なくなって、オレはパラレルワールドに来ちまったんじゃないかと焦った。
すると、うちの担任が廊下で指差してんの――あっちあっち――
ようやく悟った。
夢の続きをトレースしていたオレは、一つ手前の教室に入ってしまったんだ。
いっぺんに顔が赤くなって、教室のみんなにも廊下の担任にも笑われるし、とってもハズイ思いをした。
あの小学三年生の時と同じショックを受けた。
教室に入ったら、バグったゲームみたいにみんながフリーズしているじゃねーか!?
入って直ぐが門田の席なんで、オレは門田を見た。文化祭でシナリオと演出をやってのける奴で、あまり口は利かないけど、ちょっとばかしは尊敬している。奴なら説明とかしてくれるんじゃないかと思ったんだ。
奴は、他の男子とふざけていたみたいで、ジャンプしながら笑っていて足が床から五センチほど飛び上がっている。その横の佐伯さんもビックリした顔のまま体を捻って、横の女子にしがみ付こうとして、しがみ付かれようとしている女子はのけ反った勢いでスカートが翻って太ももの付け根まで露わになっている。
夕べはアニメなんて観なかったぞ! じゃ、なんで!?
「わたしが停めたの」
斜め後ろで声がして、ビックリして振り返った。
「イス……西田さん、動けるの?」
「わたしが時間を停めたの、停まっている間はイスカでいいから」
「あ、えと、どうして?」
「あまり余裕は無いの、教室のみんなを廊下に運び出す、手伝って」
そう言うと、イスカはしゃがんで門田の脚を抱えた。
「一人じゃ持ち上がらない、上半身を抱えて」
「あ、あ、うん……でも、入り口のドア外さないと出せないんじゃ?」
「あ、そうね、外して」
摩訶不思議な状況なんだけど、良くも悪くも指示されるとやってしまう。
時間が停まっていても関節は動かせるようで、出すのに、それほどの苦労はない。廊下に出すと関節はゆっくりと元の姿勢に戻っていく。
男はそれほどでもないけど、女の子を動かすのは気づまりだ。だけど、そこは阿吽の呼吸で、イスカはオレが持ちにくいところを持って運んでくれる。いつのまにこんな連携が取れるようになったんだ?
ニ十分ほどかかって十三人いたクラスメートを廊下に出した。秋も終わりだというのに汗だくになる。
「さあ、時間を動かすわよ」
以前のように決め台詞があるのかと思ったら、イスカはパチンと指を鳴らすだけだった。
グワッシャーン!!
とんでもない音がして、なにかが飛び込んできて、オレたちの教室一つを粉々にして飛び去って行った……。