イスカ 真説邪気眼電波伝・16
『恥ずかしのバザール』
四十八層は森と草原の世界だが街が無いわけじゃない。
ネトゲってかMMOは雰囲気というか達成感というものが大事で、ログインしたギルドメンバーが、その都度スターとシティーであるメレンブルクに集まっていては雰囲気が出ない。
たいていのギルドは、各層の街や村にログインして酒場や宿屋で顔を合わせる。中には攻略する層ごとに家を買って溜まり場にしているギルドもある。MMOの世界でも不動産は高いので、そういう溜まり場を持っているのは課金に糸目をつけないお金持ち。
そういう普通のプレイヤーが集まているので、街の住人は顔見知りかお馴染みさんだ。オレみたいな世捨て人は目だって仕方がない。
行きかうプレイヤーたちが「オ?」とか「ア?」って感じで振り返る。森のヘンクツ野郎がなにしに街へ?
おまけにブスが横に歩いている。銀鎧に栗毛の髪をなびかせて颯爽と通りを歩く姿は目立つ。森に居る時はさほどに思わなかったけどブスはかなり可愛い。丸顔に近い瓜実なんだけど、色が白くて鳶色の目が涼しい。笑うと右の八重歯が悪戯っぽく見え、ラノベのヒロインみたいだ。こういうのと一緒に歩いてウキウキするような性格をしていないオレはジリジリと遅れてしまう。
「ナンシー、さっさと歩きなさいよ!」
ただでも目立つのに、立ち止まって「ナンシー!」と呼ばわるのは勘弁してほしい。
「ナ、ナンシーって呼ぶなよ」
「下僕なんだから文句言わない!」
「わ、わーった。早くゲートに行こうぜ」
違う層に移動するためには各層の街に設定されているゲートに行かなければ転移できない仕掛けになっている。四十八層には、このフォレストタウンしかない。
「転移ポーションとかねーのかよ?」
例外的に転移ポーションを使えば攻略した層なら移動できるが、狩やデュエルのプライズか一個100円の課金で買うかしかない。なんでもありのブスなら持ってるかもと、半ばグチで言ってみる。
「楽しようと思わないの!」
「あ、そ……てか、ゲートはそっちじゃねーし」
「ちょっと買い物よ」
「か、買い物って……」
バザールには行きたくない。たまに狩の獲物を売りに行くので、他よりも顔見知りが多い。ほらほら肉屋のオヤジがニヤニヤしてんじゃねーか。
「ナン氏! 隅に置けないねー!」
「そのベッピンはタヌキかキツネが化けたやつか!?」
「ちょっと! 今日からナンシーは、わたしの下僕になって最上階の幻想神殿攻略するんだからね!」
「え!?」「うそ!?」「下僕?」「ありえねー!」「ナン氏が攻略ううう!?」 モブどもが好きなことを言う!
「ナン氏じゃなくってナンシーだから!」
「い、言うなーーーー!」
顔から火が出る思いでバザールの奥、入ったこののない装備屋の中にずんずん入っていく……。