イスカ 真説邪気眼電波伝・13
『イスカのスパルタ講習』
お弁当温めますか?
「いえ、けっこうです!」
コンビニで夕食用の弁当を買うと、ニベも無くイスカが断る。
「なんで断るんだよ」
「時間が惜しいじゃない。それよりも、なんで晩御飯がコンビニ弁当なのよ?」
「しかたないじゃん。親は仕事だし、妹は部活で帰りが遅いし……」
「ん? 勇馬の家、こっちでしょ?」
三叉路でイスカがいぶかる。
「そっちからだと、犬がいる家が二軒あって、必ず吠えられる。弁当なんか持ってたらひと際けたたましくな」
「高校生にもなって、犬が怖いって?」
「静かな住宅街なんだ、迷惑だろが……てか、なんでオレんち知ってんだよ?」
「忘れた? いっかい行ったでしょ。木から落ちて動けなくなったとき」
あーーそうだ。イスカを男の子だと思い込んでいたころに、そんなことがあった。
痛むケツを押えながら、地面に地図描いて教えたことがあった。イスカが救けを呼びに行ってくれたんだ。
家に着くと、すぐ二階の部屋で勉強が始まった。
「飯くらい食わせろよ」
「食べながらやるのよ、ほら、食べさせてやるから」
「え、そんなハズイこと!」
「言ってる場合じゃない!」
「冷たいままだと腹を壊す」
「温めて上げるわよ、ほれ」
イスカの指がヒョイと動くとプシュっと音がして、弁当の蓋の隙間から湯気が吹き出した。
「魔法か?」
「サービスよ、さ、数学からやろうか。ノートと教科書出す出す」
「お、おお……ええと……(ゴソゴソ)」
「なんで勉強道具探さなきゃ出てこないのよ!」
「い、いや、ワリイ……」
家ではネトゲしかやらないので、それ以外の者は、ここ数年溜まったガラクタの地層に埋もれている。それでも、学校への最低のリスペクトがあるんだろう、三十秒かからずに一式発見することができた。もっとも、その上に積んでいた痛いグッズの山が崩落してしまった。堕天使は、そういう点寛容なのか、危険物にも関心を示さない。妹の優姫だったらニーキックが飛んでくるところだ。
「さあ、二次関数グラフの平行移動からよ」
イスカは髪をまとめてゴムでまとめる。隠れていた顔の側面が露わになると意外に可愛い。
「えと、弁当……」
「食べさせてあげるから、教科書に注目!」
え、え、アーンとかか!?
イスカが目配せすると、パックが開き、割り箸が勝手に動き出した。
「口開けたら、お箸が食べさせてくれる。さ、いくよ……」
イスカのスパルタ講習が始まった……。