大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・イスカ 真説邪気眼電波伝・22「佐伯さんのキーホルダー」

2018-01-28 13:46:38 | ノベル

イスカ 真説邪気眼電波伝・22

『佐伯さんのキーホルダー』

 

 

 アレっと思っても詮索するような佐伯さんじゃない。

 

 ニコッと笑い、オヘソのあたりで小さく手を振ってくれる。

 こんな時に気の利いた言葉が出てくればいいんだけど、オレは蚊の鳴くような声で「ども」と返すのが精いっぱい。

 そんなブサイク男子の含羞を労わるように、もう一度微笑んでくれる。

 いい子だよなあ、佐伯さんて……。

 

 イスカと佐伯さんの余韻を持て余しながら別館を出る。

 

 あ、別館てのは校舎の一つで、音・美・書の教室と図書の分室(さっきまで居た書庫)とが入っている。

 ふつうの生徒は音美書の授業でもない限り寄り付くことはほとんどない。だから佐伯さんはアレって顔になったんだ。

 ん? とすると佐伯さんは、どうして、あそこにいたんだろう?

 

 カチャリ

 

 ボンヤリ歩いていて、なにかを引っかけた。

 ピンクのキーホルダーだった。自転車とロッカーのキーが付いている。

 キーホルダーのタグには『ERIKA・SAEKI』と書かれている。

 オレは、すぐに取って返した。

 歩きながら思った、佐伯さんはどこへ行くところだったんだ? あの先は図書の分室しかないのに。

 角を曲がって、佐伯さんと出会ったところまで戻ると声がした。

 一人は佐伯さんで、もう一人は……世界史の先生?

――いや、だから、そうとも言えるけど、この場合は……――

――でも、それでは……――

――とにかく授業で言ったり黒板に書いたりしたことが正しいんだ!――

――でも……分かりました――

――分かったのならけっこう、じゃあね――

――失礼しました――

 佐伯さんの声は珍しく角があった、出てくる気配がしたので廊下の奥に引き下がる。

 すると、なんの表記もされていない部屋から怖い顔をして佐伯さんが出てきた。こんな佐伯さんは初めてだ。

 文化祭の芝居に行き詰って屋上に出てきた時の顔とも違う。百パーセント怒りを抑えた顔だ。

 美人が怒ると近寄りがたいもんだけど、佐伯さんとは数学のあととか食堂とかで話をした、ついさっきも控えめな挨拶を交わしたところだ。なにより手元には佐伯さんのキーホルダーがある。

 

「佐伯さん」

 

 オレは、別館を出たところで佐伯さんの背中に声をかけた……。

 

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高校ライトノベル・国つ神の末裔 一言ヒトコ・2『数字がとれない』

2018-01-28 06:24:14 | 小説5

国つ神の末裔 一言ヒトコ・2
『数字がとれない』



 昔、雄略天皇が葛城山へ狩に行った時、山中で、自分たちと同じ身なりをした一行に出会った「何者だそなたたちは!?」そう尋ねると、天皇そっくりの者が、こう言った「吾は悪事も一言、善事も一言、言い離つ神。葛城の一言主の大神なり」これは、その一言主の末裔の物語である。 



 まさかと思っていた。

『探偵ナイトスクープ』の探偵三人が降板されることになった。
 関西ローカルの番組で、二十五年間視聴率二十%以上をとってきた名物番組である。
 最近は、視聴者のテレビ離れを差っ引いても、数字は十五あまりに落ちていた。

「関西はシビアだな……」

 帝都テレビの社員食堂で『サタディーナイト・21』の篠田ディレクターはスマホの記事を読んで独り言ちた。

「なに、不景気な顔してんですか?」
 アルバイトADのヒトコが中華丼を前に据えて、篠田の前に陣取った。
「ヒトコはいいよな、オレの番組ポシャっても、契約は局とだから、痛くも痒くもないもんな」
「サタナイ、やばいんですか?」
「ああ、今期中に数字出さないと、今のクールで番組打ち切りだな。中ドンとは、色気のないもん食ってんなあ、ヒトコも」
「安いし、美味いし、早いし……出てくるのも食べるのも。で、なんか企画あるんですか?」
「AKPのソックリ大集合……」
「ちょっとマンネリっすね……」
「まあ、一応数字はとれるからな」

 一回は、とれるだろうが、長期的展望にたった答えではなかった。ヒトコは業界慣れしていない(感情が正直に出る)篠田が好きだった。
「なんとかなりますよ。審査員モモタローさんで、AKPPOIDOとか、ものまねAKPなんて常連使わないんだから、きっと新鮮な収録できますって」
「ハハ、お前が言うと、ひょっとしたらってぐらいは思ってしまうな」

 ヒトコは、篠田のために一肌脱ぐことにした。

「では、カメリハいきまーす」

 選抜メンバー一組と、ピンが四組。ラストはAKPのヒット曲『希望的ライフライン』を全員で歌ってフィナーレ。間に、それぞれの日常のVが入るという、変哲のない構成だった。

 選抜と、ピン三人のカメリハが終わり、トリの大石クララのソックリさんの番になった。吉良コウという子は、ふとした瞬間クララソックリになるが、特に驚くほどではない。採用された経緯も予定していたクララ似の子が、盲腸をこじらせてアウトになったので、急きょスタッフが、SNSなどで自薦他薦のソックリさんから選んだものだった。

「じゃ、三十分後本番。それまで休憩でーす!」
 チーフADが叫んだ。

「ヒトコ見えないなあ」
「ああ、木スぺに持ってかれました」
「ADからひきあげるってか」
「木スぺは看板ですからね……」
 タイムキーパーと打ち合わせながらチーフADが、敗戦間近の参謀のように言った。

 本番になって驚いた。選抜とピン三人は型どおりだったが、クララのコウが大化けした。

 まるで本物そっくりだった。MCやモモタローとの掛け合いも素人裸足で、偶然他の番組に来ていた本物のAKPのメンバーが入ってくるというサプライズでも、コウは動じなかった。
「いや、まるで本物だあ!」
 卒業間近の高梨みなみも驚いた。
「みなみも、卒業なんかしてないで、このクララと勝負しなよ」

 この一言で、高梨みなみは冗談で「よーし、勝負だ!」と言ったが、その後のクララ人気で卒業は本当に無期延期になってしまった。

 コウは、AKPで、サプライズ登場し、個人的にもクララ自身の人気も押し上げてしまった。
 むろん帝都テレビが放っておくわけはなく『サタデーナイト・21』のレギュラーになり、数字はうなぎのぼりだった。
「そういや、ヒトコのやつ姿見ないけど、まだ木スぺ?」
 篠田が、少し寂しそうに言った。
「ヒトコなら、国に帰るって辞めていきましたけど」
「ああ……そうなんだ」

 コウになったヒトコは、篠田のため息だけで十分だった……。

 

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