イスカ 真説邪気眼電波伝・18
『優姫』
やっと起きたあ!
ソファーが口をきいたかと思うと優姫だ。
「もー、片付かないんだから、さっさと食べてよね!」
「食べてすぐ寝るとブタになる」
「それ、牛の間違いだし、牛にもならないし」
そう言うと、再び優姫はソファーにひっくり返りボリボリ×2の音を立てる。
ボリボリ・1は煎餅をかじる音。ボリボリ・2は股座を掻く音。つまり、ソファーに横になって煎餅齧りながら股座を掻いている残念美少女はオレの妹であったりする。
「ちゃんと加湿器つけとけよ、乾燥肌のくせに……」
愛情からではなく、習慣で加湿器のスイッチを入れる……水が切れているので、これまた習慣で水を入れる。
「アラーム鳴ったら起きなきゃダメでしょ」
かそけき起動音をさせて加湿器が稼働する。
「どうやってゲームにアラーム仕込んだんだ?」
「ってことは解除できてないんだ(笑)」
優姫はゲームもしないのにコンピューターとかには強い。オレはゲームには強いがハード・ソフトの面でも弱い。
「あのさ、火にかけておいてくれるなら、ときどきかき回してくれないかなあ」
「ん、なんか言った?」
「いえ、なにも」
お湯を足してカレーの鍋を撹拌する、二三分もやれば食べられないこともないだろう。
「あんたね、ネトゲのネってネットのネなんだから、寝るのネじゃないんだからね」
「優姫だって寝ながらテレビ観て煎餅齧って股座掻いてるじゃねーか」
「もう掻いてないわよ!」
「加湿器のおかげだろ」
「あんたね、寝トゲばっかやってたら、そのうちナメクジになっちゃうよ」
ナメクジ……言い得て妙なので言い返さない。焦げ付きがレーズンに見えるようなカレーが温まった。
「ん……大河ドラマなんか見てんのか」
「寝トゲのやり過ぎで、頭腐ってんじゃない?」
「え、だって『せごどん』だろ?」
「あんたが下りてきた時から観てるわよ」
「……そうなんだ」
「脳みそ腐ってるよ……ね、質問。せごどんの諱(いみな)ってなんだ?」
「いみな? いやみな妹なら知ってるけど」
「まぜっかえさない、いわば本名よ、西郷さんの本名」
「そりゃ、西郷隆盛だろ」
小学生レベルの問題に正解を食らわせて、最後に残した肉を頬張る。
「ブッブー」
「違うのかよ?」
「寝トゲのやり過ぎ~」
肉を咀嚼しながら乏しい知識をプレイバック……歴史は苦手だけど、やっぱ西郷さんは隆盛だ。ん、なんかの引っかけ問題か? オモチャにされるのもやなんで、食器を流しに持って行ってリビングを後にする。
ああーーー!?
階段に足を掛けたところで優姫の叫び声。
「ちょっと! さっきのブタって、わざと間違えたわね!」
ペシ!
スリッパが飛んできて頭に当たる、我ながら軽い音がしたもんだ……。